【⭐️2】魔道師の月
【魔道師の月】乾石智子 作:創元推理文庫 2014/11/21(個人的評価:⭐️⭐️☆☆☆)
質素倹約を心がけ人嫌い、質実剛健を体現するかのごと皇帝テューブレンの下、コンスル帝国は栄華を極めていた。
そんなある日、〈勝利の神の意思が宿る木の幹〉とされ、栄誉・財産・権力が思いのままになると言われる品が献上される。テューブレンは既に栄誉・財産・権力そのすべてを持っている自分には必要ない、どうせただの縁起物だろうと興味を示さず、次期皇帝と目される甥のガウザスに譲る。
だが、ガウザスつきの大地の魔道師レイサンダーは、それが幸運を呼び込む縁起物どころか、持つ者を破滅に導く純粋な悪意に満ちた太古の闇であると看破。その危険性を説き、すぐさま処分するよう必死に進言するも、ガウザスはまともに取り合おうとしない。
〈暗樹〉と呼ばれるその呪物が放射する底知れぬ悪意に理性を冒される恐怖と己の無力感に打ちのめされたレイサンダーは、あろうことか宴の最中に遁走し行方をくらましてしまう──というお話。
前作……と言って良いのか、【夜の写本師】の直接的な続編、という訳でもないのですけど(これだけで完結しているお話ですし)本作【魔道師の月】でのもう一人の主人公キアルスが前作にも深く関わっており、かつ、本作では(巻末の解説では「どちらを先に読んでも問題ない」とされていますが)読者が前作を読了していること前提で話が進んでいる感があったため、個人的には本作を読む前に【夜の写本師】を読了することを強く推奨します。
さておき、独自の世界観に満たされていながら具体的な解説が成されないまま話がどんどん進んでいくのは前作同様。
特に、個人的には第一部の4から唐突に出てくる「天の首飾り」「ノーランノールの鏃(やじり)の先」等の単語が星座を指しているらしい、と確信を得るまで、多分正座だろうとは思うのだけど、実際のところはどうなんだろう……? 等と少々の混乱を抱えたまま読み進めることに。
読み進めればちゃんと「何のことなのか」は何となくでも分かるようにはなっているし、懇切丁寧な解説で説明的な文章になってしまうのも味気なく、ひいては作品の雰囲気や世界観を損ねる危険性すらある、とも分かるのですけど……うむむ。
また、これも前作同様の印象なのですが、この作者は【起承転結】のとりわけ『承』の比重がとても大きいといいますか、『起承転』に全体の9割以上頁を割いている印象で、それ故【結】が急に駆け足になる感も否めず。
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
特に本作は、キアルスが追体験することになる〈星読み〉テイバドールその半生を追うだけに半分以上の頁が割かれており、他方、冒頭から実に400頁以上も割いて滔々と、その危険性と絶望的なまでに人間に抗う術(すべ)を許さんと言わんばかり恐ろしげに描写されつくしていた〈暗樹〉との対決からその結末までが、まさか10頁にも満たない僅かな文章量で書き切られているという呆気なさ。
加えて、本作は前作に比べると話に一貫性がないというか散漫というか。
レイサンダーとキアルスの運命が交わり、もっと何らかの関わりを持って共に〈暗樹〉と立ち向かう……のかと思いきや、特にキアルスに関しては、取り敢えずの対処をレイサンダーに丸投げし、果たして自分が成すべき使命(『タージの歌謡集』その復元作業)はそこそこに日常生活のそこここ(教室を開いたり奴隷を買ったり雑用係に裏切られたり)が延々と描写されていたり。正直、ジアトルスやエブンとのそれこれは、本作の本筋を語るに必要不可欠なエピソードだったのか? と首を傾げた次第(エブンにまつわる話自体は好きなのですけれども)。
唐突と言えば、本作の恋愛模様もかなり唐突。
それこそ、本筋に描写されていない裏側で何らかがあった……のか、どうか。
でも、キアルスもテイバドールも、思い人(カーラン/イスラン)と十分に心を通わせる機会も無さそう(本筋に描写されていないところでも凡そ離れ離れで会話すら満足にできなさそうな状況)な中、久しぶりの再会に唐突に抱きしめキスしたりプロポーズしたりで、本筋の牛歩の歩みとは一転、あまりの展開の早さに、んんん? と戸惑うことしきり。
──ああ、カーランと言えば彼女が飼っているチョウゲンボウのハルル、コノルの部下にも同名の人物がいた(実際、本作でもその様に触れられている)から何らか関係あるのか? と勘ぐっていたのに、特に何もなかったですね。
ただ、名言されていないだけで、なんとなく「カーランはイスラン/リルルの血筋なのだろうかとか?」と思えなくもないような語り口でもあった……気はするので、あとは読者の想像に委ねる、ということなのでしょうか。
他にも、読み終えて思い返すに、キアルスに縄を蛇と誤認させるウィダチスの魔法を使った人物が誰だったのか、その思惑も結局分からずじまい(カーランがウィダチスの使い手である事は後に語られるも、彼女にキアルスを欺き貶める理由が見当たらない)だったり、キアルスが着目したレイサンダーの「(魔術でも稀な)修復する力」も〈暗樹〉との対決で真価を発揮するのかと思いきや特にそんなことも無かったりと、散りばめられた伏線かと思いきや宙ぶらりんなままだったりな箇所が散見され、ううん……?
総じて、前作に比べ荒削り、十分に精錬されないまま世に出た作品、といった印象。
ただ、結局のところテイバドールもコノルも、ガウザスもエブンもムラカンも皆、最終的には命を落とすという容赦ない展開、そうそう都合の良い結末、安直なハッピーエンドには持ち込まないところが流石この作者だなと感嘆した次第(※もの凄く賛辞)。
もっとも、それを言ったら〈暗樹〉と相対したレイサンダーとキアルスが無事生還した、というのは、ちょっと上手くいきすぎじゃないかな、とは……思いましたかね😅
あれだけ長い年月、多くの人々を犠牲にしてきてなお幾度も人の手に舞い戻っては災厄を振りまいた太古の闇たる〈暗樹〉が、よもや「闇を持たない魔術師レイサンダーの心の傷に押し込み縫い込んだら二度と表に出ることはないだろう」で片付けられるとは。
前作が良かっただけに、何と言うか、こう──予想外にもちぐはぐで色々消化不良な点の多い、残念な1作でした。