【⭐️5】精霊の木
【精霊の木】上橋菜穂子 作:新潮文庫 2019/5/1(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️)
環境破壊により地球が滅亡して久しく、人類は様々な星へと移住していた。
少年シンが暮らすナイラ星も移住二百年祭開催を間近に控えるなか、従妹リシアが「四、五日前から変な夢を見るようになった」と訴え、その内容を聞いたリシアの母は「自分が五歳の時に体験したそのものだ」と蒼白になったという。
その話を聞いたシンの母──リシアの伯母も大層うろたえ、夢の内容を問いただし、「誰にも喋るな」と口止めした。
母親らの不審な挙動を訝ったリシアは、夜ごと見る夢から百年前に滅びたとされる先住異星人ロシュナールと、彼等の語る〈時の夢見師(アガー・トゥー・ナール)〉や〈精霊の木(リンガラー・ホウ)〉の存在を知り、数日前に第四チタン鉱山で異変が目撃されたという〈橋の岩〉を目指す。
だが、ロシュナールの歴史を闇に葬り去ろうと暗躍する環境調整局に追われることとなり──というお話。
もう何年も前、知人が「この作家さんの作品が好感」と名を挙げられた際、確か【獣の奏者 I闘蛇編】を読んだのでしたか。
元々読書は苦手だった(というか、当時プライベートにおける読書の優先順位が甚だ低く滅多に本を読まなかった)ため、Ⅱ以降は現在に至るまで読んでないのですけど──確かに、幼子に読み聞かせるような温かい眼差しと柔和な語り口が好感だったなという印象は残ってて。そのことを最近ふと思い出し、改めて、この作家の作品をきちんと読んでみようかなと思い手に本作を取った次第。
しかして、てっきり中世ファンタジーが主流の方かと思い込んでいたため、まさかのSFで面食らい──でも、いざ中身を読んでみるとしっかりファンタジー(というかスピリチュアル?)なお話で、これまた不思議感覚。
元は平成元年(1989年)に刊行された作者デビュー作とのことで、テラフォーミングが当たり前のように行われている未来という設定でありながら、記録媒体がカセットだったり機器の調整がツマミだったりと、随所に何ともノスタルジックな味わい深さを感じる1作。時代を感じますねぇ。
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
リシアの強引さ、感情にまかせ暴走するさまに振り回されるシンが不憫でなりませんが、自らが臆病な性格だと弁えているからこその慎重かつ柔軟な対応ぶりと、死に直面し怯え震え上がりながらもリシアを守り抜こうとする心の強さと──正直、序盤の時点でシンがここまで男を見せるキャラとは思っておらず、良い意味で裏切られました。
他方、リシアに関してはアガー・トゥー・ナールとしての役割その印象が強すぎてか、癇癪持ちで強引さが目立つなぁというじゃじゃ馬な印象の序盤から覚醒以降、彼女自身が云々というより、千年近くにもわたるロシュナールの壮絶な歴史と、元地球人らに不当に虐げられながらも母の国で待つ同族のために何とか精霊の木を絶やさぬようにという種としての強い意志とに存在感を喰われてしまった印象ではありましたが……それでも、リュナからドン、ひいてはロウナからユゥヤに繋がる思いに終盤涙が止まりませんでした。
最初に持ち込んだ種が100からたったの9つにまで激減してしまったけど、でも、何とか母の国に返すことができて、本当に良かった……!
他方、なぜシュウは証拠の録音データを複製・保存してなかったのかとか(コウンズにばれた時点で証拠を揉み消されるであろうことは容易に予想できたはず)細かな突っ込みどころはあるようにも思いますけれども、とはいえ、今から約40年前に作られたお話ですし、今なら当たり前のテクノロジーも、当時としては考えられないほど画期的なものである、という事なのでしょう。
自分が読んだのは文庫版(令和元年刊行)でしたので、巻末に、作者自身による「初版」「新版(初版から15年後)」「文庫版(デビューから30年後)」3つのあとがきが掲載されていたのですが、曰く「デビュー作には、その作家のすべての萌芽がつまっているという話を聞いたことがあります」との事。
確かに(本作・本作者に限らず)往々にして処女作というものは、作者の未熟ゆえの荒削り感は否めずとも、作品に込められた作者の熱意・思いは限りなく純粋で、だからこそ胸を突くものも多いように感じます。
『絵』も同様で、年数を重ねる程に技巧は上達し(……ていると、思いたい😂💦)ても、反比例するようにもっと大切な部分が年々乾いていっているような、余分なものと一緒に必要な部分まで削ぎ落とされ無味無臭になっていっているような……そんな虚しさを感じているのは、自分も否定できないところ。
気恥ずかしくてもたまには昔の、熱量の込められた作品を振り返り、初心を思い出す──そういうひと呼吸も必要なのかな、などとふわりと考えてみるのでした。