【⭐️4】夜の写本師
【夜の写本師】乾石智子 作:創元推理文庫 2014/4/11(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️☆)
右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠──
三つの品をもって生まれた子に驚き蒼白となった両親を固く口止めし、女魔道師エイリャは三つの品ともども赤子を自分の館へと連れ帰った。
カリュドウと名付けられた赤子は、おすわりができるようになる頃から既にエイリャの書庫にいて、エイリャはカリュドウが理解できるできないにかかわらず、毎晩本を読み聞かせてやった。
そうして、若くして大人顔負けの博識振りを身につけたカリュドウに、村の人々はエイリャの後継者だろうと口々に噂するも、彼はついぞ、エイリャが得意とするウィダチスの魔法──山野の獣と心を交わし使役する術──を身につけることかなわず、その役目は幼馴染みの少女・フィンが担うらしいことに嫉妬をあらわにする。そんなカリュドウに、エイリャは「フィンを護れ、呪われた大魔道師アンジストの目に触れれば殺される」と語るのだった。
ほどなく行われた〈収穫めぐり〉──八年に一度、地方の魔術師が検査を受け都に連行される行事──にて、エイリャがフィンを護るべく都の魔道師たちの目を欺いたことが露呈、アンジストの逆鱗に触れてしまう。
カリュドウとフィンを逃すべく奮闘するも、アンジストにウィダチスの魔法と気を奪われ惨たらしく殺されてしまうエイリャ。
辛うじて生き延びたカリュドウは、魔法ならざる魔法を操る〈夜の写本師〉としての修行を積み、復讐を誓うのだった──というお話。
知的で静謐、格調高く美しい文体のダークファンタジー。
本作で特に目を瞠るのは『魔法』の緻密な設定なのですが、そういった独自の世界観であるにも関わらず、一部固有名詞? の説明が初出の段階でなされない(例えば、第一部で登場する『ギデスディンの魔法』が「書物を操る魔法である」という具体的説明が初めて成されるのは第三部に入ってから、等)ため、独自設定や造語の意味をなんとなくの解釈で読み進めざるを得ない覚束なさと、婉曲的比喩表現の多さから、読み進めるのに結構な時間が掛かってしまうのは難点か。
それでも、作者デビュー作とは思えないくらい無駄も綻びもなく洗練された美しい文体と練り込まれた設定は、それだけで惚れ惚れと見入ってしまうほど(※自分が読んだのは文庫版なので、文庫化にあたり手を加えられている可能性はありますが)。
また、作者と作品の距離感も丁度良い。
人によっては、壮絶な物語であるにも関わらずストーリーテリングにやや淡泊な印象を受けてしまうかも、という感触もありますけれども、それゆえに、作者と読者の間に温度差が生まれるようなこともなく──良い意味で、作品に作者の陰がちらつかず作品の世界に集中することができたのも個人的にはとても好感。
他方、ダークファンタジーなだけあり、序盤からかなり凄惨な展開が続く(個人的には漫画【ベルセルク】や【進撃の巨人】並の容赦なさという印象)為、苦手な人は苦手かなという感じでしょうか。読み進めるに一層辛くなってゆくというか。性的暴行シーンは言うに及ばず、生死に関わる描写(身体欠損やカニバリズムなど。ある程度耐性があると思っていた自分でも少々気分が悪くなったシーンもあったり)も、特に想像力豊かな方ほど読むのがきつくなるんじゃないかなと感じましたし、それ以上に話の展開が、
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
エイリャをして「この子の魔力は御天守山の根とつながっている。やがて村を護る占い女になるだろう」と言わしめたフィンが、まさか最序盤でアンジストにあっさり殺されるとは思わず、しばし茫然。フィンって本作のキーパーソンじゃなかったの!?😱
のみならず、パドゥキアでの修行時代も兄弟子セフィアが依頼主の娘ともども呪殺されてしまう(しかも、カリュドウの慢心による軽薄な行動が元で最悪な結果となってしまった)とか、救いは……救いはないんですか!?😭
ただ、そういった徹底された容赦ない展開はむしろ個人的には好感で。
「魔道師とは他人の闇をも背負い、しかし闇に喰われてはならない。常に闇がしっぺ返しをしようと虎視眈々と機会を狙っていることを、魔道師はゆめゆめ覚悟しなければならない」というこの世界における魔道師の認識と覚悟、それを裏付けるこれらストーリーテリングも秀逸ですし、嫉妬と欲にまみれたエズキウムの魔道師とは対局にある、「嫉妬も呪いの一種、妬心を自分に許せばそこから闇が入り込む」からと新参者のカリュドウにあっという間にガンディール呪法(人形を用い呪う術。日本で言うところの呪いの藁人形的なもの)の才を抜かれてもまったく嫉妬を露わにしなかったパドゥキアの兄弟子魔術師たち、その明朗な精神性にも胸を突かれました。
クライマックス、アンジストが凶行におよんだ動機がいよいよ解明されたり失われた紫水晶の片割れを求めるシーンなどは、やや唐突というか駆け足感が否めなかったですし、エズキウムを去ったカリュドウのその後(事の顛末)がきっちり語られたのも……ううん、これは好みが別れるところ、ですかね?
自分はカリュドウが消息を絶ったところで物語を閉じても(その後を読者の想像に委ねる終わり方でも)良かったように感じるのですけど、ただ、そうしちゃうと紫水晶を取り戻すことのできたアンジストのその後が描かれなくなる訳で──うむむむむ。
こうなると、エマのその後も気になってきますし、本作品から連なる〈オーリエラントの魔術師〉シリーズは、どうやら現在まで続いている(直近では2023年に刊行された12冊目が最新刊?)ようなので、しばらくは本シリーズを追いかけてみようかなと思います。
……そういえば、いつの間にか消えた『月の書』を捜すケルシュに対しカリュドウが口にした思わせ振りな台詞、まったく意味がピンと来なかったのですが、一体何だったんだろう? ううむ、読み落としがあったのかなぁ。