【⭐️5】乱歩賞作家の創作術 エンタメ小説の書き方 初心者ガイド

 【乱歩賞作家の創作術 エンタメ小説の書き方 初心者ガイド高野和明 著:講談社文庫 2025/11/14(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️)


 映画監督を夢見、脚本家としてプロ・デビュー後、小説家へと転身した著者による創作の秘訣あれこれ。

 エンタメ小説の入門書として大変興味深いのはもちろんのこと、純粋な読み物としても随所にさりげなく差し込まれるユーモアが秀逸でとても面白く、500頁近いボリュームにも関わらず一気読み。


「感嘆符の後は1文字空ける」だとか、「カギ括弧で始まる段落は一字下げしない」、あるいは地の文の視点の話など、小説の書き方としてごくごく基本的な点を抑えてあるかと思えば、一方で『起承転結はドグマだ』とばっさり切り捨てるなど、一般論や固定観念を真っ向から否定するような見解もあり痛快。

 それ故に「自分はそうは思わないけど、そういう考え方もあるのか」と迎合できない部分も多少なりあったものの、他方、自分が今まで触れてきた一部の作品に感じた本能的気持ち悪さや拒絶感、その正体が的確に言語化されていて溜飲が下がる思いがしました。

 実のところ(先般、感想をあげた三島由紀夫の【鏡子の家】をして余り評価できなかった点などが正にそれなのですが)「崇高な近代文学と低俗な現代文学」的蔑みをそこはかとなく感じていたというか、近代文学を楽しめない自分を後ろめたく感じる気持ちをほのかに抱え込んでいたのですけど、「(文学も)より読者が理解しやすいよう進化してきたのだから、古い作品が難読なのは当たり前」という見解は本当に目から鱗でしたし、あ、自分が楽しめる作品を素直にありのままに楽しめば良いのだ、と、まさに憑き物が落ちた感覚。

 その他、著者のスタンスが自分の好む作風に近しい本当に書くべきを見定め余計なことは省く/文字で語るのではなく画〈え〉で示す、など)ことや、著者の作品を読み常々感じていた「綿密な取材に裏打ちされたリアリティ」が想像以上に壮絶な努力の上に成り立っていたこと(コメディタッチで面白おかしく描かれていた【幽霊人命救助隊】執筆中、自死願望者に同調するあまり作者本人が知らず鬱病に罹患していたという話があまりに壮絶過ぎて……!)等々、納得したり驚愕したりのオンパレード。


 また、キャラクターは作者が生み出し動かすのではなく、自然と立ちあがり勝手に動き回る、という作者の言もまことに好感。

 昔、某人気漫画家がTVのインタビューか何かで「やはりキャラクターに愛着が湧いたり、勝手に動くものなのか」というような質問を投げかけられた際、「愛着が湧くという感覚が理解できない、自分にとって登場人物はあくまで漫画を構成する道具のひとつに過ぎない」と言い捨てたことに大変なショックを受け、その漫画家のことが大嫌いになったという話があるのですが──今なら、創作への向き合い方も距離感も人それぞれだから、そういう作者もまあいるのだろうと理解できるようにはなったのですけど、それでもやはり、キャラの人格を尊重する高野氏の姿勢は好感だし、自分の創作においてもそう在りたいなと改めて。


 以下、備忘録。

「資料精読中に知らない語句が出て来たら都度単語帳に記録する」というのは目から鱗で(自分は学生時分、受験勉強とか殆どしてこなかった人間なので、単語帳というアイテム自体にそもそも馴染みがなく、その発想が無かった)確かに今まで、読書中に知らない単語が出てきたら即調べるも、その後自分で活用しなければ神速で忘却の彼方だったなぁと思い当たり、速攻で単語帳買ってきて本作を読みながら未知の語句を書き留めはじめました。


必要なことを、そのままに書く。

 著者が自作を文学作品ではなくエンターテインメントと振り切って考えているが故のスタイルだと思いますが、私個人も、比喩や婉曲的表現をふんだんに用い長々と哲学っぽいことを書き連ねられるより、無駄を省き端的に・的確に綴られる文章を好むので、この点は改めて抑えておきたいところ。


登場人物同士の会話(台詞)は、書き手としては面白いのでつい筆が滑りがちだが、読者を置いてけぼりにした独り善がりにならないよう、「その会話は本当に書く必要があるのか」を常に吟味しなければならない、との件もなるほどと膝を打つ。

 書き手として会話シーンの描写が楽しいという点に激しく共感する一方、読み手としては、ほぼほぼ会話だけで進行する小説を(少なくとも自分は)好まないので気をつけねばと自戒。

 長会話も必要性が感じられ、かつ読んでいて楽しければ全然苦にならないのだけど、往々にして作者の自己満足、読み手からすれば内容が薄くどうでも良いやり取りを延々見せつけられるだけの苦行である場合がほとんどな印象というか。

 自分がラノベ受け付けないのは、恐らくこのあたりが原因かと思われ。


どちらか一方を取れば、どちらか一方を犠牲にしなければならないという場合、損か得かで判断する。

 私個人は、話や設定に瑕疵を見つけると途端に白けてしまうたちなので、考え得る限り辻褄が合うよう腐心したくなる(※できるとは言ってない)のですが──しかし、辻褄を合わせようとするあまり、作品がこぢんまりとまとまり面白みを欠いてしまうようならば、小さな瑕疵には目を瞑り勝負に出ることも選択肢のひとつだ、という発想はありませんでした。

 確かに、普通ならあり得ないようなぶっ飛んだ設定とかでも、話がその欠点を補って余り在るほど面白ければ些事に過ぎないですもんね。


常識に縛られない。

 ふと思いついた突拍子もないアイデアを「あり得ない」「稚拙だ」と即断し切り捨てるのではなく、その思い付きをどうやったら自然に作品に落とし込めるかを、まず考える。この大胆さも自分にはないものだなぁと痛感。

 【ジェノサイド】とか、常識の範囲内で考えようと思ったら、まず書けない内容だもんなぁ。あの作品は本当に衝撃だった。



 ……と、あまり詳細に綴ると本書のネタバレ(?)になるので、このあたりで。

 小説に限らず、創作に携わる方なら何かしらのヒントや糧になる内容かと思われますので、気になられた方は是非。

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