【⭐️4】番犬は庭を守る

【番犬は庭を守る】岩井俊二 作:文春文庫 2020/1/10(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️☆)


 この国には廃炉となった原子力発電所が60基存在する。

 長年放置されていたことによる施設の老朽化、管理の杜撰さから地下に眠る核廃棄物が時折臨界を起こしては爆発、その度、爆心地周辺は放射能で汚染され、人々の生活圏は脅かされる一方と、既に国土の大半が汚染されていた。

 富豊かな者はクローン豚を作成し、放射能に汚染された臓器を幾度となく取り替え何とか寿命を引き延ばす。男子の精子その減少傾向と質の劣悪化が著しい現代においては、優良精子は精子バンクにて高値で取引され、その保有者はそれだけで有り余る金を手にでき、『種馬成金』と呼ばれていた──

 他方、第二次性徴期を迎えても生殖器が成長しない男子は『小便小僧』と蔑まれる。

 そんな小便小僧のひとり・ウマソーは警備保障会社に就職。一年後、市長邸の守衛に栄転となるが、その市長の娘と関係を持ったが故に『流刑地』へと飛ばされることとなり──というお話。


 多分に登場する国名・地名は架空のものと思われるのですけど、かと言って完全ファンタジー設定なのかと言えば『アジア』『日本』という単語も出てくるしで、現代の延長上にある、そう遠くはない未来の話、と解釈すべきか。

 ともあれ、あらすじから察せられる通り、性的表現のかなり多い作品なので人を選ぶかな、とは。

 加えて、不幸な身の上なので多少同情の余地有りとはいえウマソーは本当にろくでもない男だし、かといって、彼を翻弄する女性たちも性に奔放すぎて、どうにも共感しにくい登場人物ばかり。

 読みやすく内容も頭に入りやすいのでするすると読めはするのだけれど、ふと冷静になると「何故自分はウマソーのろくでもない半生を黙々と追ってるんだ?😓」と戸惑ってもみたり──しかし、よくある『最後の数行/数頁でひっくり返される』みたいな謳い文句ではないですが、確かに本作、『最後の一行』のインパクト……いや、余韻、というべきか、とにかく本編最後の1頁をめくり「うわ、そうきたか」と思わず唸ってしまいました。それだけで本作の評価を星1つ分引き上げてしまう程には。

 設定的にも「あり得ない未来」と一笑に付すことができないような内容で、貴重な子供をもうけるだけで給料何ヶ月分かの莫大な給付金を得られる事から、「子供が欲しいから作る」のではなく「金を得るために子を作る」、男は給付金目的に何人もの女と関係を持とうとする──という価値観の崩壊が発生したりと、妙な生々しさに色々と考えさせられました。


⚠️以下、ネタバレ注意⚠️

 ただ、確かに最後の一文にかすかな希望が託されていた──とはいえ、よくよく考えずとも、アヤカンにはウマソーの血は一滴たりとも流れていないんだよなと。

 そう思うと、緩やかに滅亡に向かう人類史において、イジュサムからアヤカンへと何代にも亘る奇跡の命の記録……と言ってよいものかどうか、若干の引っかかりを覚えなくもない……かな?

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