【⭐️5】アリアドネの声(文庫版)

 【アリアドネの声(文庫版)井上真偽 作:幻冬舎文庫 2025/9/15(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️)


 健常者も障がい者も分け隔てなく生活できる、ユニバーサルデザインな都市を構築する〈WANOKUNI〉プロジェクト、その地下都市を突如巨大地震が襲う。


 ドローンの開発を手掛けるベンチャー企業の社員・高木春生(たかぎ はるお)は、その操縦技術を買われ、地下五層に取り残されたと思われる行方不明者の捜索・救助を任じられることに。

 要救助者は一名、任務は要救助者の捜索、および生存が確認されれば地下五層から地下三層にある緊急避難シェルターへ誘導。地下一層と二層では火災が発生、最下層からは地下湧水が浸水しており、地下三層にそれら脅威が及ぶまでおよそ六時間。だが、策定済みの避難ルートは、どれほどゆっくり歩いたとしても一時間と掛からない距離──


 折しも、オープニングセレモニーで開催される見本市用に持ち込まれていた災害救助用ドローン〈アリアドネ〉は遭難者の発見に特化した機体。

 その最新型が作戦に投入されることもあり、さほど困難な任務ではないと思われたが、しかし、緊急災害対策本部の空気は重い。


 訝る高木に伝えられたその要救助者とは、「見えない」「聞こえない」「話せない」三重障害を持つ盲聾の女性だった──というお話。


 以前、単行本版を図書館で借り読了済。

 非常に衝撃を受けた作品であったため、待望の文庫化を機に購入、再読することに。


 自分がこの作品に何故これほどの衝撃と感銘を受けたのか──を説明してしまうと、(話の内容に直接触れずとも)それだけで本作の重大なネタバレになりかねないため、ここでは何も語れないのが歯がゆい限りですけれども、少しでも本作に興味をもたれた方は、どうかネタバレ無し予備知識無しのまっさらな状態で本作を手に取っていただきたいと思います。


 また、私は『一度読んだ作品を何度も読み返す』ということを滅多にしない人間なのですが、本作は、結末を知り冷静な視点で読むことができるようになった2周目ならではの楽しみ方というか、各所に散りばめられていた伏線の見事さを再認識できたのは勿論のこと、初読時には自分の感情に振り回され冷静に読み込めていなかった部分を正しく認知することで、初読時より更に評価を上げる結果に繋がったのも嬉しい収穫でした。


 正直、初読時にはネガティブな感想も無くは無かったんですよね。


〈WANOKUNI〉の地下都市設定なんて、そんな自然災害でも起きれば大惨事にしかならない舞台装置感がいかにもあからさま過ぎましたし、高木の同級生・韮沢(にらさわ)の言動も終始不快でいらいらさせられたりもして。

 ただ、前者は「地下はむしろ地震に強い(今回甚大な被害を蒙ったのは活断層が走っていたから)」という説明を初読時に自分が見落としていたのか、敢えて地下に都市を造るメリットについて再読したがためにようやく納得することができましたし、後者に関して──は、再読でも韮沢の好感度が上がることはなかったものの、彼女の言い分にも一理あるしそのことは一考すべきだと冷静に思えたのは良かった。



⚠️以下、ネタバレにつき閲覧注意⚠️


 以下、本当に、まだ本作を読まれていない方は即バックしてまずは実際に読んでみてください、と言わざるを得ない訳ですけれども。



 当方が本作で最も衝撃を受けたのは、その【巧みな叙述トリック】です。



 私は元来、この〈叙述トリック〉というやつが大嫌いでして──

 元々読書嫌いだった自分がコロナ禍を切っ掛けに読書を始めるにあたり、最初に手に取った某ミステリ小説が巷では『本格ミステリ』『映像化不可能』等と大絶賛されていたので大いに期待したものの、いざ読んでみると(自分にとっては)あまりに酷い内容で憤慨したのですよね。


 何故かというと、この作品の叙述トリックがあまりにアンフェアだと感じたから。


 読む前には何だか壮大に聞こえていた『映像化不可能』のコピーも、蓋を開けてみれば何という事はない、人物の容姿を画として見せてしまう(言葉で仔細に説明してしまう)と一発で犯人もトリックもばれてしまうという非常にお粗末な理由でしたし、このように「必要な情報(画・音声・映像など)を敢えて提示しないことで読者を欺く」メタ的手法はあまりに卑怯ではないかと。


 なので、本作の叙述トリックその鮮やかさに読了後、思わず「うわーやられた!!」と唸ってしまったほど。これほどの衝撃を受けたのは(作品名挙げると、これ又ネタバレになりかねませんけれども)映画【シックスセンス】、ゲーム【SHADOW HEARTSⅡ】以来3作目でしょうか。


『読者に必要な情報を敢えて与えない』手法に「ドローンのカメラの故障」という物語上の理由付けをきちんと行ったことといい、ネット上に広がる障害詐称疑惑やバックパックに詰めた発熱剤といった各種のミスリードといい、いやはや、実に鮮やかなお手並みでした。

 初読時には高木らと同じように博美の動向に疑問を抱くようになり、そうして目の当たりにした事の真相に、これまでの全ての伏線が綺麗に繋がり、自分の疑念や思い込みが一気に覆されるあの感覚は、なかなか味わえるものではないのではないか──


 本当に読み応えのある1冊、出会えたことに感謝。

コメント

このブログの人気の投稿

映画【8番出口】(⭐️4)

【⭐️2】吸血鬼と精神分析(※読了ならず)

【⭐️5】乱歩賞作家の創作術 エンタメ小説の書き方 初心者ガイド