【⭐️4】西川麻子は地理が好き。
【西川麻子は地理が好き。】青柳碧人 作:文春文庫 2014/11/10(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️☆)
ある老富豪が自宅の土倉で亡くなった。
土倉に入った直後、ストッパーの不具合など何らかのトラブルにより、内側から鍵を開けることのできない扉が閉まり中に閉じ込められた末の餓死として、当初は不慮の事故かに思われていたが、不自然に一面真っ赤に塗られた床、被害者が大切にしていたコレクションであるガラス細工8つに付けられた赤い塗料等々、不可解な点が捜査上に次々と浮上する。
県警捜査一課に所属する若手刑事・尾谷和寿(おだに かずとし)は、そのガラス細工について、恋人・西川麻子(にしかわ まこ)に情報提供を仰ぐ。
彼女は、中学生向け学習塾用テキストを専門とする出版社で地理の担当・編集を務める、世界地理マニアだった──というお話。全6話の短編からなるオムニバスの倒叙ミステリー。
先日書評をあげた【浜村渚の計算ノート】が数学初心者向けなら、こちらは世界地理のトリビアがふんだんに盛り込まれた1冊。
数学も社会(全般)も大の苦手だった自分、もし中学生時分にこれら作品に出会えていたら、少しは前向きな興味を持てていたのかな……と、思ったり思わなかったり。
さておき、開幕、尾谷が恋人の麻子に(他言無用と念押ししているとはいえ)ほいほい捜査情報を漏らすのはどうなんだと思いきや、事件の真相解明シーンでも当たり前のように推理に参加する麻子を尾谷の上司・中沢(なかざわ)警部すらも普通に受け入れていることに違和感ましまし。
ここはまあ、本作にあまりリアリティを求めるものでもないのかもしれませんが……なんたって中沢警部自身、何故か常に鳩時計を携帯しているという謎設定抱えてますし。
浜村渚シリーズの警察組同様、本作では尾谷がいまいち頼りにならず、事件解明の大凡が麻子と中沢警部頼みなのも何だかなという印象。
何なら、鳩時計を常に持ち歩くという明らかイロモノ風味な設定でありながら、刑事としては非常に優秀(洞察力に優れ、大体において麻子や尾谷が真相に辿り着く前に真犯人に目星を付けている)な中沢警部が、本作では一番存在感が際立っているかもしれません?
というか、自分は圧倒的中沢警部推し()。
ミステリにおいて、探偵/警察役が無能であるが故に犯人の仕掛けたトリックが稚拙でも罷り通ってしまうような展開が苦手なので、そういう点では麻子も中沢警部も有能なため安心して読めますし、何より倒叙ミステリー=話の冒頭で犯人と犯行手口が全て明かされている、という点に於いても、自分が大の苦手とする『アンフェアな叙述トリック』たり得ないのが大変好感。
そも(小さい頃の話なので多分内容は当時全然理解できていなかったのでしょうが、それでも)地上波で放送される度欠かさず観ていた【刑事コロンボ】が大好きだった辺り、倒叙ミステリーは(読者に対してこの上なくフェアという点で)自分と非常に相性の良いジャンルなのかもしれないな、と思う由。
ともあれ、世界地理に絡めた犯罪/トリックという事で、大凡リアリティは無いのかもしれませんが──それでも、よく世界地理とトリックをこうも結び付けられるものだなと面白く読みました。
頼りなく思われた尾谷も最後の最後でちょっと成長を見せましたし、今後もこのシリーズを追いかけていきたい所存……!