【⭐️5】真壁家の相続

真壁家の相続朱野帰子 作:双葉社 2015/3/22(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️)


 悪いといったら2年前に手術した腰くらい、他にこれといって大きな疾患などない──そんな、壮健に思われていた真壁麟太郎(まかべ りんたろう)が急逝した。

 大学法学部に通う孫・真壁りんが成り行きで相続に関する話し合いを取り仕切ることとなったが、肝心の遺産相続に関する欄が未記入のままな祖父のエンディングノート、その余白に鉛筆で走り書きされた『相続廃除の件について、りんに相談』のメモ、葬儀当日に突如現れた麟太郎の隠し子を名乗る男──5年前に失踪したりんの父親含む真壁家4きょうだいと各々のパートナー、そこに隠し子を名乗る男も加え、遺産相続争いは泥沼の様相を呈し始める──というお話。


 先般手に取った【超聴覚者 七川小春 真実への潜入】に、ストーリー構成も去ることながら人間ドラマ、ひいてはいち人間を描写するに大変秀でた作品だなと久々に強い感銘を受けたことから、同作家の他作品もぜひ読んでみたいと手に取った1冊。

 多分、この作家さんと自分の……思考パターンというか価値観というかがちょいちょいシンクロするのか、本作もやはり登場人物への共感・物語への没入感が凄まじかったです。泥沼振りに精神削られながらも、一気に読んでしまった……!


 基本的には気配りのできる善い人なはずなのに、些細なことへの妙なこだわりやいちいち言い訳じみた言動、腹の底の読めない迂遠な態度が地味にイライラさせてくるりんの母・容子(ようこ)と、それに対するりんの心中等々が自分すぎてもう……!

 他方、自分も父方祖母の介護とそれに関わる父および親族の無責任さや、それ故に母ひとりに押し付けられる壮絶な苦労を目の当たりにしてきたので、真壁家の伯母伯父らの口先だけの言葉に対しても、かなり生々しい憤りを感じてしまいました。


 私事恐縮ですが、自分も先般実父を亡くしまして、母と、今住んでる実家の名義を父から母に変更するか私に変更するか、という話をなんとなくしてるんですね。

 母曰く「あんたら(=私と弟の2人姉弟)に遺せるのはせいぜい、この土地と家くらいしかないしねぇ」とのことですけど、弟は既に結婚し持ち家もあるのでこの家を継ぐことはまずないだろうからと。ならまあ、自分が継ぐことになるだろうなぁ等と単純に考えていましたが──本作を読むと、遺産と呼べるものはせいぜい土地と家くらいしかなくとも、事と次第によってはこれだけ揉めに揉めるのかと肝が冷えた次第。


 それに、独り身の波子(なみこ)伯母が老後の面倒を姪(=りん)たちに頼ろうと考えているのではないか、と他親族から詰め寄られるシーンも、なかなかに辛いものが。

 まさに自分も生涯独身のつもりだし、自分で自分の面倒を見られる限りは可能なら死ぬまで)弟夫婦や姪たち、あるいはいとこら親戚に迷惑は絶対かけたくない……と思っていても、人間いつ何がどうなるかはまったく分かりませんしね。

 何より、独り身の老後を考えできうる限りの貯金はしているけれど、それでも、例えば自らの葬儀代とは別に、死ぬまでサービス付高齢者向住宅(サ高住)のお世話になれるほどの余裕なんてとても捻出できそうもない(※勤め先地域最安値賃金な上に退職金無し)し……考えれば考えるほど、なんて身につまされる小説……!😱


⚠️以下、ネタバレ注意⚠️

 そんな泥沼遺産相続争いに、一体どんな決着がもたらされるのかと先の読めなさにハラハラさせられましたが──存外、あっさりと(しかも割と円満に)片が付き些か拍子抜けな感も無きにしも?

 それ故か、クライマックスが随分駆け足だった印象を受けましたけど……でもまあ案外、実際もそうだったりするのかもしれないなぁ、とも思ってみたり。

 ただ、最後の最後で、これまで何となく煮え切らない言動にもやもやさせられっぱなしだった容子のしたたかさというか抜け目なさが明らかになり、予想だにしなかった実に痛快な結末にすっきり(この結末だけで個人的評価⭐️プラス1しました)。麟太郎と容子が真壁家の誰より一枚も二枚も上手(うわて)だったってことですねぇ。


 ……とはいえ、そんな祖父と母の密約(?)を知らされなかったりんが終始ひとり騒ぎやきもき空回りしていただけだったのかと思うと、何とも……容子さん、りんの暴走振りに気付いた時点で、保険金のこと話しておいてあげれば良かったのになぁ。

 いや、そんなことしたら(小説のシナリオ的な意味合いで)お話にならないのですが……!

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