【⭐️2】多重迷宮の殺人
【多重迷宮の殺人】長沢樹 作:創元推理文庫 2023/10/31(個人的評価:⭐️⭐️☆☆☆)
一九八〇年、日本。
戦後間もなく、来るべき核戦争に備え〈地下建築物支援法〉制定。日本各地に地下シェルターや地下要塞の建設が推し進められた結果、現在は〈地下遺構〉と呼ばれ、犯罪の温床となっている。
首都圏を震撼させている地下遺構連続殺人事件も、その犯人も被害者の共通点も不明のまま、捜査は暗礁に乗り上げていた。
そんな中、政界の名家・御坂(みさか)家の次期当主・摩耶(まや)から、祖父・忠蔵(ちゅうぞう)の遺した別荘を調査してほしいとの依頼が舞い込む。
大学で地下遺構探索サークルを主宰する藤間秀秋(ふじま ひであき)、捜査コンサルタントとして警察組織と共に現場捜査に携わる名探偵・七ツ森神子都(ななつもり みこと)、その助手兼護衛・風野颯平(かざの そうへい)の三人は摩耶と共に景雲荘(けいうんそう)へと向かい地下遺構を発見、早速調査を開始するが、直後、地震と土砂崩れに遭い、忠蔵が遺したと噂される埋蔵金目当てで不法侵入してきた探索グループ共々地下に閉じ込められてしまう──というお話。
上記あらすじを纏める際にも戸惑ったのですけど、本作、1980年の日本を舞台にしてはいるものの、私たちとは異なる歴史を歩んできたというパラレル設定なんですね。にも関わらず、その辺りの説明がほとんどなされないまま、読者が既にその設定を把握している前提よろしく話が進んでいくので、序盤(~地下に閉じ込められるまで)はいまひとつ話の内容が頭に入ってこない。
加えて、基本的に地の文は風野の一人称視点で進んでいくのですが、この風野の性格が少々軽いというか、相手の言動に対し心中しょうもない突っ込みを頻繁に入れるのが、どうにも鼻について仕方がなかった(中盤以降はこのノリも多少鳴りを潜めますけれども)。
また、本作独自の設定とはいえ、未成年が殺人事件の捜査に携われるのも、その護衛に民間人が登用されるのも、何とも危機感が感じられないというか……一応、風野の父が警察官であり、風野自身も警棒術など専門的な訓練を受けているらしい、ということではありましたが。
そんなこんなで、具体的なあれこれはネタバレ含むので後述しますけれども、個人的に、今まで読んできた小説ワースト5の内2作品を想起させる設定・内容であったこともあり、とても微妙な評価となりました。
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
※本作はもちろんの事、【方舟】(夕木春央 作)、【硝子の塔の殺人】(知念実希人 作)のネタバレも含みますので、閲覧の際は十二分にご注意ください※
地下に閉じ込められ、限られた食料、見つからない脱出口、土砂と水が徐々に迫るという極限状態を突き付けられ、自身が生き残るべく他者を手に掛けていく──という流れはまんま【方舟】(といっても、作品が世に出たのは本作の方が先ですが)。
世間一般には評価の高いらしい【方舟】ですけれども、個人的には時間返せと本を床に叩き付けたくなるほど不快な読書体験だった(犯人ひとり勝ちで探偵役全滅という胸糞さも去ることながら、そも誰かひとり脱出させ救助呼んでこさせれば普通に全員助かっただろうに──殺人に至る怨恨的動機などがあればまだしも──なぜ犯人は敢えてこんな頭悪い行動に出たのかという突っ込みどころしかなかった。舞台設定自体も、最後のオチに都合の良いように組み立てられた不自然さ満載で滑稽にしか感じられなかったし)こともあり、本作と流れがだぶり始めた時点で大変に嫌な予感が……。
本作もまた、食料庫に実はほとんど食料が残っていない事実を知った犯人が口減らしのため皆殺し決行というオチでしたが、いや、そもそも氷上薫(ひかみ かおる)って聖域を穢す存在を誅伐すべく事件を起こしていたんじゃなかったでしたっけ?
しかも、最後の被害者たる杵屋(きねや)と鳥谷野(とやの)は神子都の別人格・美都子(みつこ)に殺害されたという酷い展開(探偵役=犯人という構図に【硝子の塔の殺人】を想起。あれはストーリー自体も酷かったですけど、最後の主人公による犯人賛美が本当に気持ち悪すぎて……あの作家の倫理観は自分には到底受け容れ難い)だったし、そのあたりも含め要素盛りすぎというか話の焦点・軸がぶれぶれで、何じゃこりゃと。
そも風野、藤間が無事脱出し救助要請する可能性に思い当たっていたなら、最初にその事を全員に伝えておくべきだったよなぁと。このあたりの不納得感しかない展開も【方舟】とだぶってしまう。
最後の最後に氷上薫の正体について言及するエピローグもまた蛇足感が凄まじい。
氷上薫の誅伐=地下遺構連続殺人事件の真相究明から、いつの間にか閉鎖空間での生き残りを賭けた瑠璃による連続殺人事件に話の軸がすり替わっていた事に、最後になって今更作者が気付き大慌てで辻褄合わせるべく急遽付け足しました、という印象を抱いてしまうくらい、凄まじい取って付けた感。
しかも、神子都の多重人格オチもあれでしたけど、摩耶の返り討ちに遭い絶命した後になって「実は氷上薫は瑠璃の別人格でした」と明かされても……つか、こっちも多重人格オチかい! っていう──
ともあれ、星1か星2か評価に迷うところでしたが、先述の【方舟】や【硝子の塔の殺人】よりは多少ましな展開&オチだったかなという消極的相対的評価により星2で。
にしても藤間、序盤で相当横柄に振る舞ってたのに作中ほとんど出番無しって何なんだお前……(風野ら救出の立役者ではあるけれども)。