【⭐️3】脳男 新装版
【脳男 新装版】首藤瓜於 作:講談社文庫 2021/4/15(個人的評価:⭐️⭐️⭐️☆☆)
連続無差別爆破事件、その犯人・緑川(みどりかわ)のアジトを突き止めた茶屋(ちゃや)刑事は部下を従え突入するが、緑川は謎の男と格闘の真っ最中だった。
突入隊との三つ巴戦そのどさくさに紛れ緑川は逃亡。
緑川と格闘していた鈴木一郎(すずき いちろう)と名乗る男が次なる犯行現場と新たな爆弾の在処を自供したことで緑川の共犯である嫌疑が浮上、逮捕・精神鑑定が行われることとなる。
だが、担当医となった精神鑑定医・鷲谷真梨子(わしや まりこ)に、茶屋は「鈴木が爆弾犯の片割れとは思えない」と口にし、鈴木が一体何者なのかを真梨子に解き明かして欲しいと頼み込むのだった──というお話。
茶屋も真梨子も、そして鈴木も、基本的に登場人物みな言動にそつがなく、例えば「いや、そうはならんやろ」とか「なぜ自ら率先してトラブルを起こすのか」といった、物語を展開させるべく理にかなわぬ行動を強いられるような役割の人物もおらず、終始安心して読み進めることができました。
また、茶屋も真梨子も会話(言い回し)が若干日本人離れしている(米映画を彷彿とさせる皮肉の応酬など)ように感じられたのも興味深いところ。日本人の作家さんにしては珍しい印象というか。
真梨子自身はアメリカ生活が長かったようなのでともかく、そういった描写がない(し、真面目一徹で相手を茶化したりユーモアを交えて語るようなタイプとも到底思えない)茶屋までもが真梨子の問いかけや皮肉にさらりとブラックジョークで返す件などは、軽快でありつつも、ちょっと違和感もあったかなぁと。頭の回転その早さを窺わせるテンポの良いやり取り自体は非常に好感でしたが。
一方で、「鈴木一郎とは何者なのか」その正体を探る序盤~中盤にかけては、かなりの頁数を割き描写されていることから内容も濃密であったものの、一転、クライマックスに入った途端駆け足展開になってしまったように感じられ、何ともいえない不完全燃焼感に苛まれながら終わってしまったのは残念のひと言。
どうやら続編が刊行されているようなので、2巻3巻と読めばまた印象が変わってくる……んですか、ね……?
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
序盤から刑事としてそつのない茶屋の言動に好感を持っていた(自分の落ち度や無知を思い知らされる事態に直面しても、弁解などせず受けとめられたり)だけに、終盤、医療センターで発生した事件に際し、突然ぽんこつ(な印象)になってしまったのは本当に残念。
鈴木に対し複雑な感情を持ち互いの立場(刑事と被疑者)も微妙となれば、茶屋が鈴木を警戒するのも致し方ないだろう……とはいえ鈴木の、玲子を救い緑川の犯行を食い止めんとする数々の提案に対しても、もはや駄々をこねる子どもよろしく頭ごなしに拒否するばかりな茶屋の様子には、流石に聞き分けなさ過ぎだろうとうんざりしてしまいました。
そも茶屋、序盤も序盤で鈴木に命を救われているし、そのことを自覚してもいるはずだから、もうちょっと鈴木を信用する側に態度を軟化させて良いのでは? みたいな違和感が拭えなかったというか。
それに、黒田のことにしても──恐らく、走査器室での爆発に巻き込まれ殉職したものと思われますけれども、茶屋が黒田と連絡がつかなくなった時点で嫌な予感に苛まれ動揺するなり、何らか黒田の身を案じるリアクションがあって然りだと思うのに、特にそのような反応もなく。
それゆえか、「爆弾専門家として黒田が現場に居合わせないのは不自然だが、玲子救出の役目は鈴木にやらせたい」という作者の思惑で黒田がぞんざいに扱われたようにしか感じられず、これは流石にどうなんだという。
それどころか以後、走査器室での爆発事故と黒田の死その顛末や、医療センター立てこもり爆破事件の総括(最終的な死傷者の数だとか被害総額だとか)すらも作中一切触れられなかったのが不思議で不思議で。むしろ触れなかった理由がさっぱり分からない。まるで「鈴木と真梨子のやり取り以外はどうでも良い」と言わんばかりの端折りっぷり。
逆に、最後の鈴木と真梨子の会話は蛇足そのものに感じられてしまい──
個人的にはいっそ、鈴木が妊婦に扮していた緑川を殺害しヘリを乗り捨てた後、そのまま行方をくらまし、真梨子も茶屋も二度と彼の姿をみる事はなかった──くらい読者を突き放した終わり方のほうがしっくり来た気がしますが、作者としては、真梨子と鈴木その心の交流を描写したいという思惑があり、続編に繋げるべくあのようなエピローグにしたのだろうか……とも思ってみたり。
ともあれ、個人的にはトリックだとか犯人捜しだとかいったミステリとしてより、感情表出障害の症状だとか「感情とは何か?」といった精神鑑定的・心理学的観点からの描写の方が興味深く読めました。
とはいえ、全体的には可も不可も無く、面白さは尻すぼみだった印象。後半の展開が本当に残念。
続編を読むか否かは──ううん、現時点では何ともいえないかなぁ。