【⭐️2】とらすの子
【とらすの子】芦花公園 作:創元推理文庫 2024/6/28(個人的評価:⭐️⭐️☆☆☆)
都内無差別連続殺人事件──
被害者の性別・年齢はおろか犯行現場にさえ何の法則性も見出せず、それゆえ、人々はいつしか防ぎようのない天災であるかのように認識し、事件はエンターテインメント的に消費されるようになっていった。
うだつの上がらないフリーライター・坂本美羽(さかもと みう)は、副編集長からこの事件を調べ、記事にするよう命じられる。
当初は気乗りしない美羽だったが、「事件の真相を知っている」という女子中学生・相沢未来(あいざわ みらい)が目の前で爆殺されたことでスクープを確信、未来が告発した『とらすの会』への潜入を試みるが──というお話。
最初の語り手である美羽が、大分、こう……人の妬み嫉みを煮詰め固めたかのごと醜悪な性格を隠そうともしない(出会う人出会う人第一印象で「こいつ嫌い」と心中で唾を吐きかけたり、未来に、取材の礼に好きなものを奢ると言いつつ素直に好きなものを頼んだら「こういう時は遠慮して一番安いものを頼む、くらいの気遣いもできないのか」と胸中で悪態を吐くなど)ので、読み始めてより間もなく胸が悪くなり、読むの止めようかとすら思ったほど。
ただ、これはシンプルに美羽の性格に不快感を覚えた……のみならず、ある種『同族嫌悪』であることも否定できない(自分も他者を妬むことはありますし、自分の思い通りにならないこと、常識が通用しない相手に心中悪態を吐くことも少なからず)というか。だから、自分の汚点をまざまざと突き付けられているようで、余計に気分が悪くなったのでしょうけど。
本作は美羽の他、中学2年生の男子・川島希彦(かわしま まれひこ)、事件を切っ掛けに美羽と関わりを持つことになる女性警察官・白石瞳(しらいし ひとみ)計3人の視点で代わる代わる語られるので、美羽から視点が変わっただけでも幾分気も紛れ──るかと思いきや、それぞれに何とも闇の深いエピソードばかりが語られ、読めども読めども気が滅入る一方。
希彦パートは希彦パートで、陰惨ないじめから始まり同性愛表現(男同士の性行為や売春・強姦シーンなど)もふんだんで、なんとも……。
同性とねんごろになる件は「人智も性別も超越した希彦の美しさに運命を狂わされる周囲の人々」という描写の一環なのだろうと読んでいましたけれども、読了後、他の読者の感想を追うに、作者は美少年を据えた同性愛とホラーを掛け合わせた作品を多く手掛けている(らしい)ことや、見目麗しい希彦のBLシーン最高だのと腐女子と思われる方々がそこだけ切り取り大興奮で盛り上がってる様子に、いや待てこれは単に作者のBL趣味その産物なの、か……? と、すっかり白けてしまい──
同性愛を取り上げ描写する、それ自体の是非はともかくとして、作品としての必要性に迫られて、ではなく、作者の性癖のみに依って面白おかしくエンタメ的に消費されるために盛り込まれたのだとしたら、個人的にはどうにも抵抗感(というか最早、嫌悪感というべきか)を抱かずにはおれません。
ともあれ、その中でもやはり、美羽や佐藤、矢内、悟らが抱えるどろどろとした醜い感情があまりにも生々しく、思わず「本作のそこここに呪詛のごと吐き散らされる嫌悪感は、作者自身が世や人に抱く昏い感情そのものなのではないか?」と邪推してしまったほど。
あくまで自分の感触として、ですが、本作、作品と作者の距離があまりに近すぎるのかもしれない。読んでいる間中、さも耳元で作者の呪詛を聞かされ続けるかのごとく。もう少し引いたところから俯瞰視点で淡々と語られていたらあるいは、自分ももっと冷静にこの作品に向き合えていたかもしれないな、などと思う由。
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
物語自体は決して面白いものではない。
とにかく、終始ひたすらに人間の醜さが描写され続ける。
清くまっさらな善人のごと描写される白石すらも、その真っ直ぐすぎる正論が暴力となり弱者を痛めつけるという──綺麗事では決して片付けられない鋭利な正論で登場人物らを、読者を、容赦なくざくざくと斬り刻んでくる。
その中で「一元的な物の見方」に対する警鐘を鳴らしている……ともとれる内容で、そういった点で読むべきところは多い作品だと思う。
他方、エンターテインメントとしてはどうか? というと、これは評価に悩むところ。
美羽が最期、散々見下していた未来の言動から自身を顧み、〝会議〟で白石でも嘉納でもなく自身の名を挙げ自死を選んだところは(それまでの美羽の言動があまりに自己中心的で酷かったため)見直した……というか良い意味で予想外でしたが、白石に救いがない結末は、果たしてどう受け止めるべきなのか。
単純に、銀や鋳溶かした十字架が素材な訳でも神の祝福を受けた訳でもない普通の銃弾で魔女が屠れるはずもなし。
希彦が白石の命を奪うに恨みも何もなく、ただ気紛れのように、息するようにもぎ取っただけなのだとしたら、やはり「人の情に触れたことで善性が目覚めるのではない、ただ『どうしたら自分が人間のように見えるのか』を学習しているだけだ」というトロイ神父の言葉が正しかったという事になり──そう思えば、この結末は本作にふさわしいものと考えるしかない。
本作に「魔女にも人の情が芽生えるのだ」とか「希彦が力を失い平穏に余生を過ごした」だとか、そんな生ぬるい温情が差し挟まれる余地などあってはならない。
それでも、個人的には白石にはもう少し「まし」な結末があって欲しかったな、と思わずにはおれません。
別段バッドエンドが嫌いな訳ではない自分でも読後感はあまりよくないと感じましたが、それでも何故か、あまり後を引かない(引きずらない)後味の悪さというのが、これまた何とも不思議感覚。
ただ、最後の最後に添えられていた「魔女に性別はない」という注釈は、果たして必要だったのかどうか──男性である希彦に女(魔女)の影が纏わり付いていた時点で性別云々の範疇に無い話らしいぞ、というのは大凡読者にも察しが付いているのだろうと思うのですが、最後に敢えて明言したことで返って「別に私はBLのつもりで書いてませんよ」という作者の自己弁解に聞こえてしまい、蛇足感が否めないというか、もの凄く微妙な気分になってしまいました。
醜悪な人間の姿をこれでもかとリアルに生々しく描き切っている、という点では星3くらいに相当するだろうかと思うも、個人的にはやはり必要性があまり見出せなかったBL要素は不快感強めだったので星1マイナスで。
ネガティブな内容といいBL要素(人に依っては百合要素もある、という事でしたけど、流石に美羽と白石の仲良さをして百合に直結させるのは飛躍させ過ぎ感が)といい、多分に人を選ぶ内容だろうという点も加味して。