【⭐️3】紐結びの魔道師
【紐結びの魔道師】乾石智子 作:創元推理文庫 2016/11/18(個人的評価:⭐️⭐️⭐️☆☆)
ローランディア地方は中心都市サンサンディアに、貴石占術師カッシが現れた。
彼は、かつて神殿で見かけた呪(まじな)い縄に感嘆、是非とも紐結び(テイクオク)の魔道師リクエンシスの弟子になりたいといい、居場所を知る唯一の人物であるという漁師エンスに案内を命じる。
だが、見るからに自尊心が強く居丈高なカッシが弟子になるなどと殊勝なことを考えるとは到底思えない。
訝しんだエンスは案内を装いつつ、カッシの真意を探ろうとするが──表題作『紐結びの魔道師』はじめ、全6話の短編から成るオムニバス。
〈オーリエラントの魔道師〉シリーズは2作目【魔道師の月】、3作目【太陽の石】で大分食傷気味となり、そろそろシリーズ切りかなと考えてもいたのですけど、こちらの1冊を【太陽の石】と一緒に図書館から借りていたこともあり、目も通さないまま返却するのも忍びないかと読むことに。
これまでが、やれ「1000年にも渡る呪いと復讐の物語」だの「人々を破滅に導く太古の闇との戦いの記録」だの「かつて栄華を極めた帝国を衰退に追い遣った壮絶なる魔道師姉弟の大喧嘩」だのといった壮大なスケールの話ばかりだったのが、本作ではいち魔道師であるリクエンシスと市井の人々とのあれこれといった『個』単位のミニマムなお話に。
加えて、短編であるがゆえにこれまでの作品で散見された「本筋に直接関係しない(ように思える)道草エピソード」も本作にはほとんど見られず、集中力を切らすことなく読み切ることができました。
リクエンシスも、これまでのシリーズに登場したキャラの中では一番地に足が付いているというか、誰かの記憶や経験が混在することで人格が揺らいだり、視点が変わる事(が理由だか)で性格が別人のように思われたり、といった違和感もなく──詳細はネタバレにつき後述しますが、本シリーズには珍しいタイプの魔道師でもあり、本シリーズの中ではひときわ「立っている」キャラかなと。
……どっこい、読みながらちょいちょい頭に「?」が浮かんでいたのですけど、どうやら本作、シリーズ6冊目すなわち先に読了した【太陽の石】との間にまだ2冊あったようで😅 図書館の本の並びと、念のため刊行日も確認した上で本作が4作目だろうと判断し手に取ったのですが……参った参った💦
シリーズ物はタイトルに通し番号入れておいて欲しいなぁとつくづく。【太陽の石】は中扉に「シリーズ第三弾」と分かり易く記載されていたのに、本作の中扉には「シリーズ最新作」としか表記されてなかったので、ちょっと引っ掛かったんですよね。「最新作」なんて最新作が刊行される度更新されるのだから、こういう不確実な表記は大変よろしくないと思います。
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
【紐結びの魔道師】
作者がどういった意図を持っていたのか──元よりエンスの正体を隠すつもりはなかったのか、はたまたカッシと同じタイミングで読者にも気付かせたかった(虚を突きたかった)のか。
最初こそ、エンスは剣士として有能らしかったり大柄で恵まれた体格だったりで、なんとなく(それまで本シリーズには『剣なり格闘なり魔法に頼らず己の身ひとつでも戦える魔道師』が登場しなかったこともあり)「エンスはリクエンシスの用心棒」的先入観を持ち読み進めていたため、紐魔法が出てきた時も「リクエンシスが用心のためエンスに持たせた消費アイテムみたいなものなのだろう」と思っていたのですけど、エンス自ら紐を結び呪文を唱え始めた段階で、大凡の読者は『エンス=リクエンシス』だと気付く流れな訳ですよね。
個人的には、エンスの正体を巧みに隠した上で、カッシと同じ時点で読者にも気付かせた方が、話の流れとしてはメリハリがあるというかカタルシスが得られそうな気がするのですけど……ううん、このあたり、作者は良くも悪くも欲が無いというのか、ストーリー運びでやや損してる感も無きにしも。
読んでいると、エンスの正体を隠したいのかそうでないのか作者の意図がどうにも掴みきれず宙ぶらりん、どちらを取るにしても明瞭に舵を切って欲しかった由。
あと、分からないといえばカッシの行動もよく分からない。
〈炎の玉髄〉を狙っていたのは兎も角として、神殿に仕掛けられた呪い縄を自らの魔力をもってしても解けなかった経緯があるというのに、何故にリクエンシスのテイクオクに素手で対抗しようと思ったのかと。しかも一度目で指一本失いながら懲りずに二度までも。自らの魔力をして一度ならず二度までも太刀打ちできないという現実を突き付けられるのが嫌だったから……? でも、魔力をして太刀打ち出来ない魔術に素手で太刀打ちできる訳ないじゃない。本当、カッシの行動理念理解不能過ぎる。
……というような事を考えていてふと思い至るには。
本作者の描くキャラに、どうにも芯というか掴み所の無さを感じてしまうのは、自分の思考や価値観に当てはめると甚だ説明のできないような謎行動をとるキャラばかりだからかもしれない。
先に読了した【太陽の石】でも(⚠️以下、【太陽の石】のネタバレ注意⚠️)それまで散々「ネアリイに育て直されたデイスは魔導師デイサンダーとは違い人の心を思い遣ることができる(から、復讐の闇に飲まれたナハティのようにはならない)」と言っておきながら、いざネアリイが殺されると「ナハティ許せない復讐するからデイスの人を思い遣る心はネアリイの亡骸と共に置いていく」と宣言してみたり、いや何でそんな決意がコロコロ変わるの? と。
キャラの意志が物語を導く、のではなく物語にキャラが振り回されてしまう作品は個人的に評価が低くなる傾向にあるのですけど、本作(というか本シリーズ)は正に後者の性質が強いのかもしれません。
【形見】
僅か6頁の非常に短いお話。
ひょっとして、リクエンシスが登場した(自分が未読の)4作目か5作目を読んでいたら表層以上の何かが読み取れるようなお話だったのだろうか? と後々になって感じた由。
【水分け】
何百年という永い時を生きるリクエンシスが、その僅かなひと時の付き合いだったにも関わらず絶大な信頼(?)を寄せる書記リコとのお話。
……なんだけども、多分にリクエンシスとリコの友情というか絆というかを描写したいお話なんだろうな、とは思うものの、危篤となったリコの意志は果たしてどこにあったのか、自分の寿命を分けてでも生きながらえさせて欲しいと神に願うリクエンシスのエゴばかりが目に付き、個人的にはとても美談とは思えなかった。
結局、リコは意識を取り戻しその後18年生きながらえた……という事は、多分にリコは100歳近くまで生きた? という計算になるのかな。本作の世界観に於いて平均寿命は凡そ50前後とされているようなので、100歳まで生きるというのは相当なものでしょう。リコの性格からすれば、自分の意志も確認せず勝手に延命措置(というか魔術というか)したリクエンシスを恨んだりするようなことはよもやないだろうけれども、危篤時点で80歳くらいと十二分に生き抜いてきた人間を、本人が望むならまだしも他人が「もう少し生かしてくれ!」と懇願し、本当に(勝手に)生きながらえさせるというのは、リクエンシスの身勝手でしかないのでは……と、自分なんかは感じてしまったのですが。
多分にリコは『健康寿命』が延びた(自分の面倒は自分で見られたくらいには壮健だった)のだろうから美談で済ませてもまあ良かったのでしょうけど、例えば現代の延命治療(終末期医療)に当てはめ考えてみると、ベッドに寝たきりで自分の面倒も自分がやりたい事も満足にできない体になっても尚、死の来訪をできるだけ遠ざける為だけに延命する医療にどれだけの意味があるのか? 患者本人が望んだのなら未だしも、患者本人の苦しみを差し置いて家族が延命を望むのはエゴなのではないか? というのを常々考えていたので、余計に色々考えてしまったのかも。
【冬の孤島】は化け物退治のお話、【子孫】と【魔道師の憂鬱】は──まあそういうテーマならこういう内容(語り口)になるよね、という印象で、特筆すべきほどの感想はないかなと。
そういえば、カッシってシリーズ第一作目【夜の写本師】に登場してたんですね。本当に名前がチラと登場したくらいだったので、第一話(紐結びの魔道師)であんだけ出張ってたのに、最終話(魔道師の憂鬱)で具体的に語られるまで全然気付けなかった😂
っていう事は、【夜の写本師】の時点でカッシの指が無かった理由は設定されてたってことなのでしょうか。