【⭐️4】家庭教師は知っている
【家庭教師は知っている】青柳碧人 作:集英社文庫 2019/3/20(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️☆)
首都圏にある家庭教師派遣会社《家庭教師のシーザー・池袋教室》に勤める原田保典(はらだ やすのり)は、家庭訪問担当主任として大学生のアルバイト講師たちからの相談を受け、児童虐待などが疑われる派遣先家庭の訪問を行っている。
「派遣先の家に、空っぽの鳥籠が、あるんです」
家の至る所に空(から)の鳥籠があって気持ちが悪い──ひとりの大学生アルバイト講師からそう相談をもちかけられ、問題の家を訪問した原田だったが──というお話。全5話+エピローグからなるオムニバス。
積極的に生徒家族と関わろうとする原田の言動に対し「児童虐待の早期発見など家庭教師派遣業の域を超えている」として否定的な沼尻(ぬまじり)室長、反して原田の姿勢に好意的な新人・清遠初美(きよとお はつみ)、原田のアパートに入り浸り推理の手助けをする謎の女子高生・リサ、一筋縄ではいかない生徒家族たち──
虐待の疑いがあるたび家庭訪問を行うも、実は虐待の事実はなく……というケースもままあり、そこが逆にもの凄くリアルなのかなという印象を受けました。だからこそ「もし虐待ではなかったらどうしよう」と尻込みして行動(通報など)に移せない人も往々にして居るのではないか──そんな中でも果敢に行動を起こす原田を、良くも悪くも希有な存在として描いている点からも、作者のそういう意図があったのかなと。
何にせよ、『家庭教師の視点からのミステリー』という、今までにない切り口の1冊。
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
実は、清遠の正体に関してはうっすら察しが付いていた(もっとも、原田が学生時代に助けなかったリサ本人かと推測していたので「察しが付いていた」とは言いきれない)のですけれども、原田への恨み自体は分かるにしても、同様に妹の窮状を知りながら見殺しにした実母への恨みを差し置いて原田にだけ(?)殺意を向けるというのは、些か逆恨みというか筋違いのように感じられて、うーん。
大変物騒な話ではありますが、清遠が原田への復讐計画を実行に移す前に実母を手に掛けていた──とかなら、動機にもうちょっと説得力が感じられたのかな……と思う一方、身内への恨みからまったく無関係の人に危害を加える事件が後を絶たない現代を思うと、この筋違い感もむしろ『リアル』なのかもしれないですね。
後、最後のエピローグは文庫書き下ろしという事で、連載誌ではもの凄く尻切れトンボな終わり方をしていたようですが(文庫版もあそこで終わってたら自分、原田、良くても両足切断かなと物騒な想像のままで終わってました😱💦)絶体絶命の原田を救ったのが沼尻室長というのも、ちょっと唐突過ぎるというかご都合展開過ぎた印象かなと。
先の5話(本編)を通して沼尻室長の、原田への評価や児童虐待に対する意識に少しずつ変化がもたらされていく描写があればまだしも、直前まで趣味の骨格標本フィギュアをバーバリーのハンカチで拭き拭きするしかしてなかった(全然仕事してなかった)沼尻室長がエピローグで突然「今更ながら原田の活動の重要性を思い知らされた!」と改心を告白、覚醒したかのように大活躍するのは、やはり違和感の方が先立ってしまった。
いずれにせよ、(恐らく)殺人未遂で連行された清遠の「自分の悪事は否定しないが、原田への恨みは変わらない」という台詞は実際そうだろうと思うし(結局、原田がリサを見殺しにした事実は変わらないし、清遠に対し何かをした訳でもなし)、それに対し「原田主任が今後も児童虐待の早期発見に努めることが清遠の救いにもなる」という沼尻室長の言葉も単なる綺麗事として虚しく響くばかりと、何ともやるせない結末とはいえ、この作品はこの後味の悪さもまたリアルなものとして、個人的には高く評価しました。