【⭐️5】ジェノサイド

ジェノサイド 上/下高野和明 作:角川文庫 2013/12/25(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️)


 難病に冒された息子の高額な医療費を稼ぐため、民間軍事会社に勤める傭兵ジョナサン・イエーガーは休暇を返上しある極秘任務に就く。それは、コンゴ民主共和国に秘密裏に潜入し、危険な病に感染したピグミー族を駆除する暗殺任務だった。

 一方、日本では創薬化学を専攻する大学生・古賀研人(こが けんと)が父親・誠治せいじ)の葬儀を行っていた。そのさなか、葬儀に参列した父の知人である新聞記者・菅井から『ハイズマン・レポート』という単語を聞かされるが、研人にはまったく心当たりがない。

 しかし、誠治の死から5日後、突如父名義の電子メールが研人の元に届く。

『自分の研究を引き継ぎ、ある難病の特効薬を創薬しろ』

『すべては他言無用。電話やメールは全て盗聴されているものと思え』

 何の冗談か、そうでなければ父の被害妄想だろうと訝しむ研人だったが、父の遺したノートPCを狙う謎の女性の出現、研人の身柄を拘束せんと東奔西走する公安当局の動き──日常が突如非日常へと変わる状況に父の言葉は真実味を帯び、研人は知らず、とてつもない事態に巻き込まれてゆくのだった──というお話。


 作者が本作を執筆するにあたり、膨大な数の資料を読み込み各専門家に取材を重ねたであろうことは下巻巻末の謝辞や主要参考文献を読むまでもなく、政治・戦争・創薬化学等々、実に多岐に渡る分野そのいずれもが圧倒的専門性とリアリティでもって、しかしその分野に明るくない読者にも理解できるようかみ砕いて描写されているので、難しい話(特に創薬関連)でも苦も無く夢中になって読み進めることができました。

 実は自分が思っていたのとは大分、こう……ジャンル? 話の方向性? 設定? が中盤辺りから全然違った方向に舵を切ったので「うん?! えっこれそういう話なの!!?😱」と面食らったのですけど、それでも、あんな突拍子も無さそうな展開をぶっ込んで来ても尚、テーマ──表題【ジェノサイド(大量虐殺)】から窺える人間の残虐性・おぞましさの描写──がぶれないのは実にお見事としか……!

 およそ戦争とは無縁の現代日本を生きてきた自分には遠い紛争地帯のリアルは全く想像だにできなかっただけに、本作に記された凄惨な出来事の数々は本当に衝撃でした。これ、恐らく事実に基づいてるんですよ、ね……?

 「他言するな、電話もメールも盗聴されている」という父の警告を目にしておきながら取り合わず、ホイホイ各所に電話したり他人に相談する研人の無警戒さは一体何なんだ、と普通なら作者のご都合主義(「いや、そうはならんやろ」みたいな非常識な行動を起こすトラブルメーカーを起点に物語を動かす)を疑うところなのですが、本作に於いては「平和ボケしてる日本人がいきなり盗聴だの何だの言われても普通信じないよなぁ」と納得できてしまうストーリーテリングもこの作者の巧さ、でしょうか。


⚠️以下、ネタバレ&一部センシティブ表現有につき閲覧要注意⚠️

 加えて、誠治の死に不審な点があれば流石に研人も警戒したでしょうけど、全く疑う余地の無い病死だった訳ですしね(それでも自分は、最後の最後まで誠治謀殺説を疑ってかかってましたけれども!)

 疑うといえば李正勲の存在も最後までハラハラだったというか、かつてアメリカ軍基地に勤務していたという経歴から絶対バーンズ政権側の人間だと思っていたので、いつ研人は裏切られるのだろうか、いつGIFTが盗まれてしまうのだろうかと、終始気が気ではありませんでした……!(結局、最後の最後まで普通にめちゃくちゃ良い人でホント良かった……!!😭)

 そういった具合に、研人サイドの話は(勿論、公安当局の妨害やタイムリミットに追い込まれるギリギリの展開などはありましたが)協力者の存在や創薬過程など思いのほか上手くいきすぎてる感も否めなかったのですけど、イエーガーサイドの話が裏切りや欺瞞に満ちた凄惨な展開だっただけに、その対比として敢えてそのように描写したのだろうなと。でなきゃ、唯々人間不信に陥るしかない話ですよこんなの……!

 そんなイエーガーサイドの話は、とにかくコンゴの武装勢力による村民の陵辱・虐殺に、本当に同じ人間がこんなことを考え実行に移せるものかと戦慄するばかり。

 特にオネカの話はもう本当に……少年兵として育てるべく家族を惨殺し身柄を奪うに飽き足らず、実の母親を強姦し首を切って殺せと命じるだなんて、一体何がどうなったらそういう思考に至るのだろうか──同じように命ぜられ拒絶した兄を目の前で斧により真っ二つにすることでオネカを恐怖で服従させようという事ではあるのだろうけど、なら母親を陵辱させる意味は? これでお前も一人前の大人になったぞという儀式的な意味合い? もう訳が分からない。

 他方、「(殺す相手は)誰でもよかった」等という無差別殺人や加害者が己の性欲を満たす為だけの性犯罪などが報道される度、およそ種としての生存本能に由来しないであろう同族加害をやってのける生物は人間以外に存在するのだろうか? というのは常々疑問に思っていたのですが、ハイズマン博士をして「だから私は人間という種が嫌いなのだ」と言わしめたことに、もの凄く共感を覚えました。


 いやもう本当に、様々な感情がぐちゃぐちゃにかき乱される、もの凄い作品だった……特にイエーガーサイドは遠慮の無い凄惨な描写が多いので苦手な方・想像力が豊か過ぎる方には辛い内容かもしれませんけれども、それでも、是非一読いただきたいなと思います……!

このブログの人気の投稿

映画【8番出口】(⭐️4)

【⭐️2】吸血鬼と精神分析(※読了ならず)

【⭐️5】乱歩賞作家の創作術 エンタメ小説の書き方 初心者ガイド