【⭐️2】生還者

生還者下村敦史 作・講談社文庫 2017/07/14(個人的評価:⭐️⭐️☆☆☆)


 世界第三位の高峰・カンチェンジュンガ登攀中に雪崩に巻き込まれ死亡した兄、その遺品の中に人為的細工が施されたザイルを見つけた増田は、兄の死は事故ではなく殺人ではないかとの疑念を抱く。

 程なく、同じ雪崩に巻き込まれながら奇跡の生還を果たした2人の登山家──

 先に救出された高瀬は兄の登山隊から見捨てられ遭難し加賀谷に助けられたと訴え、後に救出された兄と同じ登山隊であった東は高瀬とは出会っておらず同隊のメンバー加賀谷に裏切られ食料と装備を奪われてしまったと真逆の主張を繰り返す。

 増田は雑誌記者の八木澤と共に、兄の死の真相を探るべく奔走するが──というお話。


 ごく主観的に話すと、主人公の増田直志は自分がもの凄く苦手なタイプというか、面倒くさい手合いだなぁと😅

 初恋の人が兄と婚約し、でも諦めきれないからと諸々無茶した結果周囲に幾度となく迷惑をかけてしまう若気の至りだとか、それ故に身勝手な言い分で兄を責め立てたりだとか──現在に至っても、初恋の人への思いを捨てきれぬまま葉子と付き合い、そんな健気で一途な葉子がいながらも八木澤に惹かれたりと、何かもうどうしようもねぇなコイツと半ば呆れたりもして。

 人間くさいといえば、至極人間くさくもありますが──

 只、幸いな事に、作者自身は増田の女性に対する不誠実さに作中明確に否を突きつけているので、そこは安心して読めたかなと。

 偏見も多分にあるかも、ですけれども、自分が今まで読んできた男性作家の作品には、こういう男性像を肯定的に描写したものも少なくなかった印象でしたので余計、この作家さんに好感を持ちました。


 他方、お話としてはどうだったのかというと──

 山の怖さだとかサバイバーズ・ギルト問題だとか災害救助の困難さ等々、そういった諸々の知識を得られるという点では非常に興味深い内容でしたが、しかし、それにまつわる登場人物らの心理描写に関しては……ううん、腑に落ちない点は多々あるかなぁと。

 実際、サバイバーズ・ギルトを痛感するような実体験が自分に無いから理解できないだけなのかもしれませんが。

 それは置いておいても、4年前の遭難その真相(主人公の推測)に関しては、流石に蛇足に過ぎた感も無きにしも。


⚠️以下、ネタバレ注意⚠️

 最近の作品に散見される(印象の)『悪人扱いだった人が実は悪くは無かったんですよー、その人なりにこういう理由があったんですよー』って弁明的な流れに持ち込むのは、やっぱり無理が出てくるよなぁと😓

 加賀谷の真相に関しても、4年前に見捨てたのは実は加賀谷ではなく美月ら女性陣の方だったのでは──の推測は流石に……加賀谷を悪者にしたくないあまりの蛇足にしか感じられなくて、何だかなぁと。

 山に対し常に誠実であり確固たる信念を持っていたはずの美月がまさか、っていう落胆もあったし。美月が直接関わった訳ではなくとも、結局皆の意見に従い加賀谷を見殺しにしようとした(かもしれない)訳ですしね……加賀谷が女性陣を見捨てた訳ではなく、本当にホワイトアウトでテントを見失い戻れなかっただけなのだ──じゃ駄目だったのかしらと。

 そういった諸々の辻褄合わせが強引に過ぎる気がしたし、八木澤に告白しそうになりながらも結局葉子の元に戻った増田も、なんとなく作中の流れからして、本当にこのまま葉子と幸せになれるのだろうか? って言いようのない不安感も芽生えたままだしで、うーん……。

 何より、葉子がプレゼントしてくれたアルピニスト(アウトドア用腕時計)に、もうちょっと物理的な活躍を与えて欲しかった感が凄い……! 遭難したり雪崩に巻き込まれてしまった際、これのお陰で命拾いした、的なね! 出来すぎかもしれないけど、あの流れならそれくらいのドラマ性はあって良かった気がする。

 というか、そういう展開をもの凄く期待していたのに、実際には八木澤に浮気しそうになった際、腕に巻いたアルピニストが目にとまったから辛うじて踏みとどまった──けど、結局カンチでの一件が片付き八木澤に告白しようとした(のを八木澤に遮られた)とか、増田お前ホントにさぁ……!


 増田お前ホントそういうトコやぞ!?

 葉子ちゃん本当に良い子なんだから泣かすなや!!

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