【⭐️3】少女には向かない完全犯罪

 【少女には向かない完全犯罪】方丈貴恵 作:講談社 2024/8/19(個人的評価:⭐️⭐️⭐️☆☆)


 黒羽烏由宇(くろば うゆう)は〈完全犯罪請負人〉。被害者に代わり、法で裁けない犯罪人に〈同害復讐〉することを生業としている。

 黒羽はその日も特殊詐欺グループひとつを壊滅に追い遣り、自身の完璧な仕事ぶりに酔いしれながら、心地よい眠りに就く──


 だが、次に目覚めたとき、黒羽は集中治療室で生命維持装置に繋がれた意識不明の自分自身と相対することとなる。

 足許に視線を落とすと、自分の足が床から数センチ浮いている──朧気に戻ってきた記憶から、あの後、自身が何者かによってビルの屋上から突き落とされ、辛うじて一命は取り留めたものの、今まさに死の危機に瀕していることを悟ったのであった。

 死を覚悟した黒羽は、自身が屋上から突き落とされた当夜落ち合う予定だった新たな依頼人のことを心残りに思い、待ち合わせ場所に指定していた空き家へと向かう。

 既に約束の日から四ヶ月が経過しており、何もないだろうと高をくくっていたが、はたしてそこには、手斧と、黒羽が目印として依頼人に持参するよう指示したカスミソウを手にした年端もいかぬ少女が、ヘッドライトの明かりを頼りに徘徊していた。


──この子が、新たな依頼人なのか?


 思わずそう口にした黒羽に、少女は、合うはずのない視線を確かに向けてきたのだった──というお話。


 特殊設定ミステリで有名な作家さんで、自分はデビュー作【時空旅行者の砂時計】からなる〈竜泉(りゅうぜん)家シリーズ〉に惚れ込み追いかけているのですけれども、本作も違わず〈幽霊犯罪者×霊感あり小学生女児〉の超異色バディが繰り広げる特殊設定もの。


 私はミステリ小説には一定のリアリティを求めるタイプなので、何かの記事でオススメに挙がっていた【時空旅行者の砂時計】も、当初は「タイムトラベルできるなら何でもアリになるのでは?」と半信半疑だったのですが──いざ手に取ってみたところ、良い意味で予想を裏切られたというか、単に奇抜さを狙ったイロモノ設定という訳ではなく、ミステリとしてしっかり地に足の付いたトリック構築とストーリーテリングに感心させられまして。


 本作も、タイトルに『少女』とある割には主人公が成人男性だしで、一体どういう事なんだろう? ……と思いきや、黒羽が幽霊化してからが本番、しかも(詳細はネタバレにつき後述しますけれども)頁数半ばにして早、物語が結末を迎えてしまいそうな展開に差し掛かるところなど、予想外の展開に流石は方丈氏と膝を打つばかり。

 加えて、黒羽が霊体である事から、それこそ「何でもアリ」になりそうなところ、実際には生者に一切干渉ができない事から、できる事はせいぜい敵陣視察や警察資料の盗み見などに制限されていることで、一定のリアリティを損なっていない(幽霊だからこそできる反則的トリックなどが報復計画に組み込まれていない)ところも相変わらず好感。


 また、奇抜な設定の割に、今までの作品は割とシリアスというか落ち着いた雰囲気のものが多かったように感じていたのが、一転、本作は主人公のひとりが生意気な小学生女児ということもあってか、黒羽との掛け合いもコントめいた雰囲気が散見され、そこがまた新鮮な印象だったでしょうか。


 一方、後半の流れは個人的に苦手とするパターンだったので、最終的には何とも微妙な評価に……。



⚠️以下、ネタバレ注意⚠️


 中盤から終盤にかけ次から次へと畳みかけるどんでん返し、悉く裏返り新たになる真相に継ぐ真相──


 黒羽が『本物の』完全犯罪請負人ではないと逆縞に暴露される件までははらはらしながら夢中で読み進めたのに、そこから「三井夫妻を殺害した真犯人は逆縞だった!」「いや(音羽の)叔母だった!」「じつは黒羽が真犯人だったのだ!」「と思わせておいて、本当の本当に真犯人だったのは」──という目まぐるしい手の平返しには、流石に胸焼けを禁じ得ないというか。

 音葉が「叔母が自分の両親を殺害した犯人だ」と告発したあと、自ら「本当は叔母さんは殺してないんだよね?」と前言撤回する件などは特に違和感が拭えず。新たな証拠や情報が出てきたが故に推理を覆した(覆さざるをえなかった)ならまだしも、そういった経緯も特になくシーンが切り替わる毎にころころ推理が変わるをして『どんでん返し』とするのも、それこそ言ったもの勝ちというか、もう何でもアリになっちゃうよなぁと。

 そうでなくとも、あまり話の軸をあちこち振り回してしまうと芯がぶれてしまい「あれ、これ何の話だったっけ?」と目的を見失いかねないし、読者に与えるインパクトも回数を重ねる毎に新鮮味を失ってしまう。


 やはり、読者を欺く仕掛け(どんでん返し)は1作品にひとつ、どんなに欲張っても2つまでがせいぜいだろうなと改めて。


 ともあれ、黒羽と音葉のコンビぶりは見ていて微笑ましいし、この流れで作者が黒羽を生存させたということは、あるいは本作もシリーズ化を視野に入れているのでしょうか……? 結局、黒羽の過去(火事の件)も真相は分からずじまいなままだし。

 生身となった(生還した)黒羽の仕事ぶりと音葉のコンビっぷりを見てみたい気もしつつ、まずは〈竜泉家シリーズ〉4作目を期待したいところであります。



 ……そういえば、地の文の一人称『私』に対し、桂司先輩を模倣している時の黒羽その一人称は『僕』で、本来の黒羽の一人称は『俺』。

 この書き分けに何か深い意味か仕掛けでもあるのかと思いながら読み進めたのですけど、特に意味は無かったらしいのが引っかかるかなぁ、などとふと。単に、人物本来の一人称に関わらず、地の文では一貫して『私』を用いるのが作者のスタイル、ってだけなのでしょうか?

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