【⭐️4】探偵の探偵
【探偵の探偵】松岡圭祐 作:講談社文庫 2014/11/14(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️☆)
中堅調査会社社長・須磨康臣(すま やすおみ)が経営する探偵養成所に、紗崎玲奈(ささき れな)が入校する。
高校を卒業したばかりで社会経験に乏しく、探偵には不向きな人目を引く美貌──「探偵のすべてを知りたい、だが探偵にはなりたくない」と言う玲奈に、須磨は実家へ戻るよう促すが、彼女は「養成所を出ていく気はない」と頑なに食い下がるのだった。
なぜ、玲奈は『探偵』にここまで固執するのか。
その動機を探るべく玲奈の身辺調査をはじめた須磨は、彼女の複雑な家庭環境と凄惨な過去を知ることとなり──というお話。
最近はラノベ……とまではいかないまでも、軽妙な語り口の作品を読み続けていたからか、本作の、極力感情をかみ殺したような、淡々として重厚な語り口は久し振りの感覚。
読者とも作品とも一定の距離感を保った文調、さり気なくも知性の感じられる比喩表現など、文体から受ける印象は非常に好感。
また、冒頭からいきなり「小説の世界に生きる探偵と実際とではまったくといってよいほど異なる」と断言するをして『アンチ探偵小説』のような語り口なのもユニーク。
相手と揉み合いになれば、いちいち睨み合い間合いを計りながらじりじり拳を交わすのではなく、先手必勝、やられる前にやる、なんて当たり前だし、物語のクライマックスで、集めた関係者を前に探偵が縷々と推理を述べ真犯人を追い詰めるなんてこと、実際にやれば真犯人が黙って推理を聞きおとなしくお縄に掛かる訳もなく、その場に居る全員を死に物狂いで殺しにかかり逃亡を図るだろう、と言われればまったくその通りだなと。
実際に本作は、探偵が足で稼いだ情報からじっくりと緻密な推理を立て確実に犯人を追い詰める……というシーンよりも、得た情報もそこそこに直接敵陣へ殴り込み相手と取っ組み合いする、といったシーンの方が圧倒的に多かった印象(※生々しい暴力シーンが多い上、女性ばかりが酷い目に遭う──勿論、男性キャラなら酷い目に遭っても良い、と言いたい訳ではありませんけど──ので、バイオレンス系苦手な方はご注意)。
また、事務用糊が火傷の軟膏代わりになるだとか、照明と衣料用洗剤との関係だとか、知識的方面でも非常に興味深い内容で、大変勉強になりました。
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
何より、玲奈の生い立ちから『悪徳探偵と敵対する探偵』という構図で物語が進むのも面白かったなと。相手が探偵だから探偵のセオリーが逆に足枷になるなど、腹の探り合いに終始はらはらさせられました。
……とはいえ、いくら聡明であっても若さと経験の浅さから迂闊な行動を取りがちな玲奈に終始やきもきさせられたのは言うにおよばず、助手として登場する峰森琴葉(みねもり ことは)に至っては、最初から最後まで唯々足を引っ張る存在でしかなかったのには流石に閉口。
養成所で2年、実務で1年経験を積んだ玲奈とは異なり、何の訓練も研修もなくいきなり現場に放り込まれたド素人なのだから、足手纏いになるのは火を見るより明らかなのは当然だし、そういう設定上、琴葉があのような立ち回りのキャラになること自体も何ら不自然さはないのだけれど──じゃあ、ろくな訓練も指導もせず琴葉を現場に向かわせた須磨は一体何を考えているのだ、という話になる訳で(琴葉に対し「探偵のこつが掴めてきたな」というような発言をしているので、そのシーンが作中描写されていないだけで指導はしていたのかもしれませんが。それにしたって、普段は電話応対と資料整理しかしてない印象だし)。
巻末の解説にて「琴葉は助手としてはまるで役に立たないが故に、玲奈の凄みを読者に伝える役割を十二分に果たしている」とありましたが、ううん……まあでも、ずぶの素人が最後の最後で突然覚醒したかの如く見せ場を得る、というのも、それはそれで不自然極まりないので、琴葉というキャラの立ち回りは、これで良かった……んですかねぇ……?
ストーリー自体もクライマックスに向けトンデモ展開目白押しになってゆくしで、ううん。
とにもかくにも、最後、玲奈が琴葉のお見舞いに行くも、全てを失った自分と満たされている琴葉との決定的な違いに静かに身を引き、亡き妹・咲良(さくら)への思いとの決別をも図った?(ポーレットを処分した)件はあまりにやるせない流れでしたけど……でも本作の色を見れば、この結末はむしろ必然だったろうな(中途半端に優しいオチにされても逆に困る)と腑に落ちた由。
そんなこんなで、ストーリー面だけ見れば★3評価が妥当かなと思いつつ、随所に散りばめられた豆(?)知識や探偵業のイロハなどが大変興味深かったため★4で。とりあえず続編も読んでみたいと思います。