【⭐️2】鏡子の家(新版)

 【鏡子の家(新版)三島由紀夫 作:新潮文庫 2021/3/1(個人的評価:⭐️⭐️☆☆☆)


 世界の崩壊を信じるエリート会社員・杉本清一郎(すぎもと せいいちろう)、学生拳闘選手・深井峻吉(ふかい しゅんきち)、若く才能に溢れた画家・山形夏雄(やまがた なつお)、美貌の無名俳優・舟木収(ふなき おさむ)

 名門資産家が令嬢・友永鏡子(ともなが きょうこ)のサロンに集う四人の青年の栄光と破滅──というお話。


 作家名は聞いたことがあるものの作品に触れた事がなかったのですけど、『日本語が美しい作家』として紹介されていたので、これを機に手に取ってみることに。


 しかして、あらすじが何とも書きづらいのと同様に、物語の全容も掴みにくいといいますか。


 初っ端から「……で、この話は一体どこに向かってるの?」という掴み所の無さ故か、前半はただただ漫然と読んでしまい内容も頭に入って来ず、頁を繰る毎に舟を漕ぐ始末。今まで如何に起承転結が明確で、冒頭から話の道筋が分かり易い(明確なゴールが設けられている)作品ばかり手に取っていたかを痛感させられました。

 確かに語彙は豊かで表現力に富んでいると感じられる文体ではあるものの、逆に言えば描写が詳細過ぎ・過剰装飾気味とも受け取れ、ひとつひとつの言葉をして語彙や表現力に感心したとて、それを総体として捉え解釈するにはノイズが多すぎ、読んだ側から言葉が頭の中を滑り通り過ぎてしまう、という印象(自分が端的な文章を好み、比喩的装飾的婉曲的表現で1から10まで隙間なく飾り立てるより、スパイス程度に用いられる方が好感を抱きやすい性質であることが、この印象に大きく影響していると思われ)

 何より、特段『日本語が美しい』とは感じなかったかなぁ個人的には。

 美しい描写もふんだんにある一方、俗で生々しい描写も少なくなくなかったことが、その要因かなと分析。


 また、登場人物が男女問わず貞操観念奔放過ぎなのも個人的には好意的に受けとれなかった要因のひとつ。ここは執筆当時(1958-1959)の時代背景が大いに影響していると考えるため、現代的な視点・価値観で評価を下すべきではないのかもしれませんが──個人的に、峻吉が女性に対しまるで誠実さがない(「商売女は不潔、面倒くさい女はごめん、簡単で体つきが良くバカな女が一番いい」と断言し、かき氷屋の娘を誘う件など)点は本当に不快だった。


 このように、(貞操観念云々以外の面でも)全体的に現代の倫理観・価値観では理解しかねる部分が多いからか、登場人物の言動や思想・信念にも(そういう尖った考え方もあり得るのか、という点で興味深いのは認めるにしても)いっかな共感や好感を持てず、結果、それぞれが破滅の道を辿るに至っても「まあ自業自得だよね」と終始冷めた目線で見ることとなったのは、本作にとって良いことだったのかどうなのか。


 同じ時代に生まれ、同じ価値観を備えた上で読んでいたら、まったく違った印象になったかもしれませんけれども──


 以前、夏目漱石の【坊ちゃん】を読んだ時にも、ジェネレーションギャップ(ナイフで自分の指を躊躇なく切り落とそうとした件など)に度肝抜かれたものでしたが、いくら世間に広く名作・名作家といわれようとも、作品や作中の登場人物に一定の共感や好感を求めたがる自分には近代文学すら敷居が高いらしいぞ、と改めて痛感させられた次第。

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