【⭐️3】同姓同名

同姓同名下村敦史 作:幻冬舎文庫 2022/9/8(個人的評価:⭐️⭐️⭐️☆☆)


 高校生の大山正紀(おおやま まさのり)は、プロのサッカー選手になり世界中に己の名を轟かせる夢を抱いていた。

 そんな矢先、日本中を震撼させる女児殺害事件が発生。

 年端もいかない女児を刃物で何十箇所も滅多刺し、首は皮一枚で辛うじて繋がっていたという凄惨振り──未成年の犯人その名は報道されないかに思われたが、週刊誌が暴露した犯人の実名は『大山正紀』だった──

 有名大学へのスポーツ推薦入学が白紙に戻され、プロサッカー選手への道が絶たれた大山正紀。

 今まで親しくしていたバイト先同僚から突然拒絶された大山正紀。

 二次元のロリ娘を愛でるというだけで性犯罪者予備軍だと誹謗中傷を浴び、個人特定~SNSアカウント削除にまで追い込まれた大山正紀。

 何十社もの面接を経てようやく就職したブラック企業、そこから抜け出すべく転職を試みるも、唐突な内定取り消しを受け無職となってしまった大山正紀──

 凄惨な事件その犯人と同姓同名というだけで人生を狂わされた多くの大山正紀たちは、やがて【大山正紀同姓同名被害者の会】を結成、自分たちの人生を取り戻そうとするが──というお話。


 まず正直な印象として、残虐非道な殺人犯と同姓同名であるからと言って、いくら何でもそれだけの理由でこんな理不尽な差別を受けるだなんて、実際にあり得るのだろうか? という事。

 犯人の実名が報道された上で、現在も指名手配中(犯人がどこに潜伏しているか分からない)なら周囲の人間が警戒するのも分かるのですけど(最も、指名手配中に実名をホイホイ名乗る犯人もそう居ないとは思いますが)、実名報道時点で犯人は既に捕まっていた訳ですし、全く見知らぬ赤の他人が名前を耳にし一瞬ギョッとする事はあるにしても、これまで親しくしてきた友人知人までよそよそしくなる、付き合いを断つまでに至るというのは、流石にちょっと想像しにくい。

 最も、作者はいくつかの文献を参考に本作を執筆されたようなので、そのような経験の無い自分には想像しにくいというだけで、犯罪者と同姓同名であるが故に実害を被った人々も少なからずいらっしゃる(そして、その実話を元に本作が執筆された?)という事ではあるのでしょうけど──


 ともあれ、本作は大勢(10人くらい?)の大山正紀が登場し、それぞれ容姿等の特徴は最低限しか語られない。

 しかも、話の時系列も曖昧(件の女児殺害事件発生前~発生から数年後にまで跨がる話)なので、「今は一体どの/いつの大山正紀視点で話が進んでるの?」と混乱することしばし。

 基本的に、そこまで分かりにくい(全然分からない、という)箇所はそう多くはありませんでしたが、前後を何度か読み返し確認する作業が必要となったり、特にクライマックス、2人の大山正紀が登場するシーンでは、その言動からこの2人が一体『どの(どちらの)』大山正紀なのか判別つかず、かなりのストレスを感じたのも事実(※後程きちんと判明しますけれども)


 また、本作はミステリというより社会派な内容寄り──主には、何の根拠も証拠も無しにネット上で犯人を吊し上げる無責任な正義への警鐘──だと感じました(ネタバレに触れるので詳細は後述しますが、個人的にはミステリ小説として読むより社会派小説として読んだ方が幾分納得感があるかな、という印象も)けれども、作者が伝えたいこと・訴えたいことは痛いほど分かるものの、その思いが強すぎてか余りに前のめりな(誇張表現に過ぎる)事に、少々鼻白んでしまった感も否めず。

 先述の「凶悪犯と同姓同名というだけで、これだけ理不尽な扱いを受けるものなのか?」と感じたように、ネット上で振りかざされる『無責任な正義』の描写はとてもリアルだと感じた一方、実際に同姓同名の人と関わった生身の人たちの反応だったり、ですね。その辺りは、テーマ性をより的確に伝えるべく脚色強めなのかな、という気がしないでもないものの、終始違和感は拭えなかった。


⚠️以下、ネタバレ注意⚠️

 何より【大山正紀 同姓同名被害者の会】その面々は「公開されていない真犯人の顔を世間に晒すことで、自分たちがこの大山正紀とは全くの別人だ、なのに同姓同名というだけでこれだけの不利益を被っているのだと被害を訴える」目的で出所した犯人捜しを始める事になる──その活動目的自体どうかと思うのですが、これだけの大人数が寄って集ってSNS上に上げられた真偽不明の情報を鵜呑みにし、ろくに裏取りもせず「あいつが真犯人に違いない!」と尾行したり、あまつさえその自宅に不法侵入したり、幼い子供をあわや性犯罪に巻き込みかけたりと、目も当てられない浅慮振り。

 元高校生サッカー選手の大山正紀が、そんな非常識な面々に対し、至極全うな正論をぶつけ会への参加を拒んだ件がせめてもの、でしょうか。


 他方、本作は私が嫌う【アンフェアな叙述トリック】がふんだんに盛り込まれており(各大山正紀の特徴が詳しく描写されていなかったり、シーン毎の時間軸が飛んだり前後したりと曖昧だったり、映像化するとトリックが成立しない──例えば『大山正紀』→『おおやま まさのり』という男性かと思いきや『おおやま まさき』という女性だった等)終盤の展開にもやもやが止まらなかった事に加え、一度二度ならぬのどんでん返しその畳みかけ(この辺り正直、読者に真犯人や展開を推理させるミステリ小説としてはやり過ぎじゃないかと個人的には)、しかも最終的には真犯人が大山正紀の名を捨て、新たに綺麗な名を得て逃げ果(おお)せるという結末には、何とも言えない後味の悪さが。


 更に追い打ちを掛けたかったのか、巻末の書き下ろし【もうひとつの同姓同名】(昔いじめをしていた女性が復讐を目論む被害者男性を返り討ちで殺害した挙げ句、正当防衛で逃げ切ろうとする話)は本当に蛇足だったと感じる。

 本編はまだテーマ性があったから真犯人の狡猾な立ち回りも副次的なものと割り切って読めましたけど、こちらは唯々、加害者側が得をするというだけの話で。

 俗に言う【イヤミス】というものなのか、割とこういう構成の話は他でも見かけますし、中には「悪人は必ず裁かれなければならない、というルールは無い」という弁をも目にした事がありますけど──個人的にはやはり、こういう胸糞な話はあまり読みたくないし、罪を犯した人間には相応の罰が下ってほしいなと。


 うーん、何だろうな。


 この作家さん、基本的には読みやすく分かりやすい、テーマ性も明確な(読後に色々と考えさせられる)作品を手掛けられる方だとは思うのですが、毎回、詰めの部分で余計なシーンや設定を付け足してしまい、そこで作品全体の評価を少し落としてる感が否めないかなぁ……何とも勿体ない(※個人の感想です)

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