【⭐️2】パラサイト・イヴ
【パラサイト・イヴ】瀬名秀明 作:新潮文庫 2007/2/1(個人的評価:⭐️⭐️☆☆☆)
永島聖美(ながしま きよみ)はその日、車の運転中に事故を起こし、搬送先の病院で脳死判定を受けた。
直前に腎バンクに登録していたことから、聖美のふたつの腎臓は心停止後、速やかにふたりのレシピエントへ移植されることが決まったが、夫・利明(としあき)は担当医に「腎提供と引き換えに妻の肝臓をくれ」と秘密裡に頼む。
聖美は生きている──
生化学者である利明は何かに憑かれたように『Eve1』と名付けた愛妻の肝細胞を培養しはじめるが、それは驚異的な増殖をみせ、やがて人類の脅威へと変貌してゆくのだった──というお話。
同名のゲーム【パラサイト・イヴ】をplayしたことがあり(最も、冒頭も冒頭の話の流れしか覚えておらず、ちゃんとクリアしたかどうかも記憶が定かではないのですが)機会があれば原作も……と思いつつ、そうこうしているうちに原作発表から実に30年も経過していたとは驚きです。
プロローグとエピローグを除き全3部構成ですが、うち2部までは専門的な生化学用語が飛び交う(自分のように、そちら方面に疎い読者にとっては)かなり難解な内容。
一応、シナリオの中枢に直接関わってくるらしい用語のみ本編中で解説が加えられるものの、それでも難解なことに変わりはなく──それでいて、実はそれら専門用語の内容を逐一調べ詳細を確認せずとも、話を追うだけなら読者の理解度はあまり影響しないというのも……うーん、何でしょう。
専門的な内容を理解できなくとも話の筋を負うに影響ない点をして敷居が低いと好意的に見るべきか、本筋に関わってくる重要な情報に違いないと調べながら丹念に読み込んだ末に実は本筋にそれほど関係はなかったと徒労感を味わわせる可能性を危惧すべきか──
ともあれ、そんな無知の自分にも、薬学関係や手術関係の内容が非常に専門的で正確(リアル)なものであるらしい事はひしひしと伝わってきます。何せ作者が薬学博士号を修得されているとのことですから、長年培ってきた知識や実体験に基づく描写がリアリティを生みださないわけがない。
だからこそ1~2部終盤まで、かなりの頁数を割き地道に積み重ねてきたリアルな描写を、2部終盤~3部にかけての超展開で一気にチープなものに貶めた落差は如何ともし難く。
そういう意味では、設定的に……というか世界観的に? 原作の超展開というか超設定をゲーム版はあまり違和感なくうまいこと落とし込んでいたのだなと、今更痛感した次第(逆に言えば、あの超設定は現代物小説よりアクションゲームの方が相性が良かった、とも解釈できるか)。
あと、ゲーム版では最序盤で発生した人体発火現象パニックが、原作ではかなり後半での展開だった(し、ゲームほど大惨事にはならなかった)というのも意外というか虚を突かれました。
そんな後半のチープな展開に加え、随所に「なんでそうなるん?」と首を捻らずにはおれない突っ込みどころ満載かつ都合の良すぎる展開(※ネタバレにつき後述)の数々、執刀医の一挙手一投足を余さず書き連ねるなど、書き手の視点が専門的過ぎるが故に想像すると気分が悪くなるほどに生々しい手術シーンの描写、後半は一転して「これは官能小説だったの、か……?」と引いてしまうほどにしつこい情交シーン等々、かなり人を選ぶ内容かな、という印象。
⚠️以下、ネタバレ注意⚠️
Eveに乗っ取られつつある聖美の異変に利明が気付かなかったらしい(後半「そういえば、あの時の聖美はおかしかった」みたいな独白が突然出てきますけど、取って付けた感が凄まじかった件)とか、Eve1に襲われあれだけの恐怖を感じたにも関わらず、以後、部分的な記憶喪失など自身の異変を「気のせい」で片付けてしまった浅倉(Eve1が浅倉の体内に侵食後、記憶操作したのかもしれませんが、それでも記憶喪失が頻発したら普通は不安を覚え対処しようとするものでは)の楽天ぶり、出会い頭に邪魔だと次々モブを瞬殺するEve1の非道振りを存分に見せ付けておきながら、利用価値のある利明はまだしも、吉住にも「先生には感謝しているから殺したくない」と妙な情を見せたり(結果、一命を取り留めたり)と、かなり都合の良い展開が多いんですよね。
先に綴った人体発火現象パニックに関しても、ゲーム版では現場となったカーネギー・ホールで大勢の犠牲者が出たと記憶していますが、原作では司会者が心停止させられ、発火したのは浅倉だけだったし(しかも、発火したのは厳密に言えば浅倉の体にまとわりついていたEve1の肉塊で、浅倉自身に命に関わる深刻な被害は無かったというオチ)。
終盤、Eve1が麻里子に受精卵を移植しようとした際も、2人の看護師は体の一部を残し原形を留めないほど焼き尽くされた一方、同じく発火した吉住の両腕に関してはどれほどのダメージを負ったのか(腕にどれ程の火傷を負ったのか、その事により以後の身体的活動にどれほどの障害が発生したのか等々が)作中一切触れられない。
こんな風に、ストーリーを牽引する主要メンバーのほとんどがEve/Eve1/イヴに殺害されても不思議ではない(むしろ殺害されないと不自然ですらある)流れの中で悉く生還を果たしており、そのところの作者の思いきりの悪さというか甘さが、本作のホラー感や恐怖感をかなり中途半端なところで押しとどめてしまっているように感じました。
ゲーム版よろしく、学会発表時に浅倉や他参加者に篠原もろともEve1に焼き殺されていてなんら不思議は無かったと思うし、正念場でイヴの邪魔をしようと立ちはだかった吉住や安斉があれだけいたぶられ痛めつけられてもなお生還できたのも、突然の出産を強要された麻里子がほぼ無傷だったのも、それらすべてに「思い入れのある登場人物たちをなるべく生存させたい」という作者の身贔屓が透けてみえるようで、何だかなぁと……なんて語ると、まるで自分が無慈悲な読者であるかのようですけれども😓
いえ、自分も別段、沢山人死にが出るような作品を好んでいるという訳ではなく、むしろ登場人物が無意味にころころ殺されていく作品には嫌悪感を抱かずにはおれないタイプですらあると思っていますが──こと本作において、そういう中途半端な慈悲は作品の切れ味をただただ鈍らせただけだったのでは、と感じた由。
とにもかくにも、面白かったかどうか? と問われると何とも判ずるのが難しく──難解な専門用語の洪水に、頁数の割に読み進めるのに時間が掛かったなぁ、ということだけは確か。
そうしてようやく辿り着いたラストも、無敵過ぎて太刀打ちできないイヴのあっけない最後(10数億年も生き核にとって代わる事を目論んでいたEveが、ミトコンドリアの父系遺伝子の影響をすっかり失念してた、なんて有り得ます?)に唖然。永島が壮絶な最期を遂げたことを知りながら、込み上げる涙に「こんなことで泣くなんてみっともないぞ浅倉!(テヘ」と照れ笑いしながら取り繕おうとする浅倉の理解不能過ぎる思考回路にすっかり白けちゃったし……。
あとは、登場人物の一挙手一投足をいちいち詳細に描写し過ぎというか。
薬学部の駐車場に車を停め、玄関ロビーの脇のロッカーからサンダルを取り出し下履きから履き替え、エレベーターに乗り5階のボタンを押して……等々、ただただ『薬学部の研究室に向かう』件をこんな箸の上げ下ろしまで描写せずとも、読者はある想像で補ってくれると思うよ! と心中で突っ込み三昧。
開幕「利明は何々した」「利明は何を思った」「利明は」「利明は」の連呼に早速うんざりしてしまいました🤢