【⭐️1】新装版 匣の中の失楽
【新装版 匣の中の失楽】竹本健治 作:講談社文庫 2015/12/15(個人的評価:⭐️☆☆☆☆)
『黒魔術師』とあだ名される大学生・曳間了(ひくま りょう)が行方不明となってよりおよそ二ヶ月。
推理小説マニアの集い『ファミリー』の一員であるナイルズこと片城成(かたじょう なる)は、自身が発案した会合で「ファミリーを登場人物に据えた実名の探偵小説を執筆する」と宣言、どのような内容かと詰め寄るメンバーに、最初の犠牲者は曳間になると語った。
しかしてその翌日、まるでその小説が予言であったかの如く、倉野貴訓(くらの たかよむ)の自宅で曳間の遺体が発見される。
現場の不可解な状況に、ファミリーのメンバーは自分たちで真相を突き止めようと推理合戦を繰り広げることになるが──というお話。
「三大奇書に次ぐ第四の奇書」と称されているそうで、噂を聞くだけでも「自分じゃ絶対読み切れないだろうなぁ」と感じる三大奇書よりは読み易く、それでいて三大奇書の要素すべてをこの1冊で味わえる(らしい)という評から手に取って見ることに。
ネタバレになるため詳細は控えますけど、連載開始当時(1977年)なら斬新であったと思われる構成や仕掛けも今読むと既視感のあるものばかり、敢えて『奇書』と称するほどのものなのか? と首を捻ってみたり。
また、巻末のインド学研究者・松山俊太郎氏の解説を読めば、実は本作のそこここに余すことなく仕掛けやオマージュが込められていたらしい事が判明するも、事前にそれら知識を持ち合わせていなかったり、あるいは度々本筋から逸れては差し挟まれる蘊蓄披露に知的好奇心を刺激されない(私のような)読者にとっては、ただただ話が頻繁に横道逸れ推理しようとする読者の思考をいたずらに妨げ煙に巻こうとしている、としか感じられず。
本編約800頁という大ボリュームにも関わらず、その内容のほとんどがファミリーの切れ味鈍い不毛な推理合戦に費やされ、当然ながら真相が突き止められるはずもなく、幾度となく「前にこんな事があったのを覚えているか」と振り返りを促すような流れになるも、ただでさえ遅々とした展開に嵩増しされた頁を遡ってまでわざわざ確認しようという気も到底起きない。
内容自体も正直これといって面白味を感じられず、推理も何も早々に放棄、あとは消化試合のように淡々と読み進める姿勢にシフト。
これも巻末の解説を読めば別作品の用語をもじった言葉遊びであったらしい事が判明するのですけど、登場人物(複数)らがやたらめったら台詞の節々で「あっは」「あはあ」「ははん」と他者を嘲るような口癖を発するのは大変不快だった。キャラの個性、ひいては大学生ゆえの若気の至りと思えば、その表現自体を否定する訳にはいかないものの、おかげで登場人物誰一人として好感を持てず共感もできなかった。
また、本作は『アンチ・ミステリ』とも呼ばれているようで、自分はその定義を知らなかったのですが、確かに謎は謎のまま──どころか、読者に推理させる材料を与えるでもなく、ただただほったらかしにされている印象で、最後に明かされた犯人も動機も真相も取って付けたような唐突感、当然それらにカタルシスなど感じられる訳もなく「……は? 何それ(白目)」という不納得感と、800頁も付き合わされた挙げ句のオチがこれなのかという徒労感だけが残されたという有様。
新装版にて加筆されたらしいサイドストーリー【匳(こばこ)の中の失楽】は(恐らく本作で作者が狙ったであろう仕掛けが)コンパクトに纏められており、本編より遥かに読み易く上質な作品だと感じた由。
ともあれ、かなりのミステリマニアで知的好奇心旺盛な方なら楽しめるのかなと思いますけれども、相当に人を選ぶというか、特に無学で知識欲もない自分には本作の良さが理解できなかったようです。