【⭐️4】マーダーボット・ダイアリー(1~5巻)

 【マーダーボット・ダイアリー(1~5巻)マーサ・ウェルズ 作/中原尚哉 訳:創元SF文庫 2019/12/13-2024/10/11(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️☆)


 かつて任務中に不具合を起こし顧客五十七人を殺害した警備ユニットの〈弊機(へいき)〉は、密かに自らの統制モジュールをハッキングし自由を得ていた。

 にも関わらず、その事実をひた隠しにし表向きは保険会社の所有物として警備業務を続けつつ、娯楽チャンネルのフィードからダウンロードした大量の連続ドラマに耽溺する日々を送っている。

 そんなある日、ある惑星資源調査隊の警備を任されていた〈弊機〉は退屈な任務を持て余していたが、突如、未確認生命体に調査員が襲われたことで事態は急変。調査パッケージ内危険生物リストのサブレポート一部欠落やホッパーの自動運転機能障害など、何者かの妨害工作を疑うトラブルが次々と発生、敵の正体も目的も掴めないまま〈弊機〉は顧客を護るべく、ひとり奮闘するのだが──というお話。


 かつて人間を大量に殺害した経緯から密かに自らを〈殺人(マーダー)ボット〉と蔑み、「人間+殺人ボット=気まずい」と人間を努めて遠ざけようとする〈弊機〉。人と目を合わせるのが苦手で壁を向いたまま、時には監視カメラをハックし相手を俯瞰しながら会話するというコミュ障ぶり。

 それでいて、既に人間の指示に従う必要はないというのに、元警備ユニットとしての矜持か、習い性か、あるいは単なるお人好しなのか、窮地に陥った人間がいれば、何としてでも助けずにはおれない性格。

 面倒くさい、やりたくない、ドラマ観たいとぼやきつつも、いざ顧客(人間)が危機に瀕すれば「死んでも助けます」「(できそうになくても)できます」ときっぱり宣言し、その言葉通り、どんな困難をも乗り越え人間を守り通す──


 このように〈弊機〉は何とも味わい深く愛しいキャラクターだが、一方で、統制モジュールから解放され自由の身となってなお、結局は面倒ごとに巻き込まれ人間に尽くさずにはおれないその姿その献身ぶりに、何とない哀れに思う気持ちも。それでも、〈弊機〉自身が人間を護ることを「自分がやりたいこと」と感じ行動しているのなら、それもありなのか。


 本作【マーダーボット・ダイアリー】シリーズは2026年6月時点で上/下/ネットワーク・エフェクト/逃亡テレメトリー/システム・クラッシュの5冊刊行済。


 以下、続刊予定だそうだが、〈弊機〉や〈ART〉始め非人間キャラが魅力たっぷりに描写されている一方、人間キャラの印象が弱めなのが残念。

 如何せん、登場人物がとても多い割に具体的な描写がほとんどなく(外見的特徴の描写がほぼ皆無などころか、言葉を発するまで男性か女性かすら分からないケースも多い)性格的あるいは役割的に似通ったキャラも多いため、正直、1巻(上巻)を読み終えた段階では、以後全巻通し重要な立ち位置となるプリザベーション調査隊のメンバーでさえモブ的な印象が拭えなかったほど。


 また、本シリーズの地の文は原則〈弊機〉の一人称一元視点で、概ね毎作〈弊機〉の独白から始まり、カメラがゆっくり引いていくように徐々に〈弊機〉の於かれている状況(大凡がいきなり大ピンチ状態)が判明してゆく──というパターンだが、状況描写が足りないのか、はたまた自分の読解力の問題なのか、状況が鮮明にイメージできずふんわりした曖昧な理解/想像のまま話が進んでゆくことが多い印象。

 例えば〈ホッパー〉が何なのか作中では全く説明されず、ネットで検索しても真っ先「漏斗状の粉体貯留装置」が出てきますから謎は深まるばかり(本編を読み進めれば「恐らく惑星の地表を飛行する乗り物なのだろう」と察しは付くが)。〈ピン〉や〈フィード〉〈キュービクル〉なども同様。読者がこれら専門用語(?)を最初から全て理解している体で話が進んでいくのは、やや不親切な感も。我慢して読み進めれば自ずと(なんとなくでも)理解できるようにはなるので、そこがせめてもの救い、と取るべきか。


 これは是非とも映像化してほしい作品だな──と思いきや、既にドラマがApple TV+で独占配信されている模様。

 ただ、PV観た限りでは低予算感が拭えないというか、メカデザインもフィードUIも芋っぽさが抜けない感じというかで、サブスクしてまで観たいかというと微妙なところ。潤沢な予算でもって映画化、が理想ではあるが、話が長すぎて(巻数が多くて)無理筋か。


 いずれにせよ、〈弊機〉の魅力でついつい読んでしまう本シリーズ。

 6巻目の発売が待たれます……!

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