【⭐️4】踏切の幽霊(文庫版)
【踏切の幽霊(文庫版)】高野和明 作:文春文庫 2025/11/10(個人的評価:⭐️⭐️⭐️⭐️☆)
かつて大手新聞社の社会部遊軍記者として辣腕を振るっていた松田法夫(まつだ のりお)は、2年前に最愛の妻を病で亡くし、失意と後悔のうちに報道の第一線から退いていた。
二十年来の付き合いである老舗出版社の婦人月刊誌『女性の友』編集長・井沢(いざわ)は、そんな彼の憔悴ぶりを見かね契約記者として雇うが、今なお苛まれ続ける妻を失った喪失感からくる無気力と、遊軍記者時代とは畑違いの仕事内容とに、まるで成果を上げることのできない松田にいよいよ契約打ち切りを仄めかし始める。
そんな松田が最後のチャンスにと任されたのは、「下北沢三号踏切に幽霊が現れる」という、読者から寄せられた心霊ネタの取材だった──というお話。
以前、図書館で単行本を借り読了済の作品なのですが、文庫化を機に買い直し再読。
作者の感情や思想を極力織り込まない、良い意味でほどよい距離感の淡々とした筆致で紡がれる上橋菜穂子作品をここ最近立て続けに読んでいたからか、本作の、主人公・松田の生々しい感情がねっとりと織り込まれた地の文(三人称一元視点)に、やや拒絶反応が。初読の時には、こんな引っかかりは感じていなかったと思うのですけど。
他方、あらすじだけ見るとオカルトホラー物のように見てとれますが、実際には社会派ミステリーだったり人間ドラマだったりと、ひとところに留まらない多様な読み方のできるユニークな作品。世に溢れる胡散臭い心霊話かと思いきや、その幽霊騒動の原因と思われる変死事件、未だ身元不明の被害者、その身元を探るうちに次々と判明する痛ましい真相──
特に、松田が苦悩し自問し悲憤する姿は、同年代(40~50代)の方には痛覚を伴って刺さる部分があるのでは。
随所にご都合主義的展開や、ちょっと語りすぎかなと感じる部分も無きにしも、ですけれども(個人的には、霊能者が松田を霊視する件とかエピローグとかは、顛末を具体的に描写せず雰囲気だけ匂わせておいた方が余韻があったのではないかな、と)幽霊を題材にしながらも単なるパニックホラーで終わらせない、こういう読み口の作品もあるのだという点でも、一読の価値はある作品かと思います。
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